在日コリアン&日本人 学生座談会
各方面で話題を呼んだ映画『月はどっちに出ている』。若い世代の在日コリアン、そして日本の若者たちは、この映画をどう受け止めたのか。お互いの「壁」を取り払い、言いたい放題の座談会に挑んでもらった。§′ §′ |
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なぜ、この映画が日本で
こんなにウケたのか ◆姜正斗●今日はお忙しい中、この狭い部屋にお集まりいただきありがとうございます。今回のテーマは、『月はどっちに出ている』を見て、在日コリアンの学生と日本人の学生とで、その内容について座談しようというものです。じゃあ、とりあえず感想文を集めます。
朴芳玉●わたしの読んでみて。
李相勲●自信あるねぇ。
朴●違うねん。聞きたいことがあるねん。
姜●じゃあ、芳玉の感想文から…。
「在日の中ではよくある視点で、映画自体には特別な新鮮味を覚えなかったが、日本の人がこれを見て、どう思うのか気になる。この映画がウケて"やっぱり"という気はするが、正確にはよくわからない。いっしょに映画を見に行った日本の子は、日頃わたしが教育しているから、いわゆる普通の感想が聞けなかったので、今はそのあたりを聞きたい」
杉崎五十誉●あれを見て、どういう面白さがあるかってこと?
朴●それだとちょっと難しいと思うから…。
李●なぜ、はやったか、ってことやろ?
姜●この映画って、賞を独占してんで。知ってた?邦画って今までダメやったらしいけど、空前のヒットみたいな感じらしいで。
金子早苗●う−ん。なんていうか、素直に笑えた。
杉崎●そう。変に暗いとこばっかり映してると"うーっ"とかって感じだけど…。みんな明るいから、同情なしで笑えた。
金子●感想文にも書いたんだけど、先入観とか持たないで、素直に見れた。
朴●そうね。だけど、明るい映画って、いっぱいあるでしょ?邦画の中で。でもこの映画がウケたんだよ。なんでだと思う?在日の映画の中では明るいからウケたのはわかる。他の映画はみんな暗いからね。でも日本の他の映画と比べてもウケたのはどうしてだと思う?
高浜みゆき●人権問題とか重いものを扱っているけれども、それをサラリとこなしている。
朴●じゃあ、内容を求めているっていう気持ちもあるのかなあ。
金子●そう。ただのお笑いだけの映画とかじゃなくてね。
朴●『七人のおたく』とかじゃなくってね(一同笑)。
金子●そう。どうせ映画見るんだったら「内容があって笑える」みたいなのがいいよね。
姜●じゃあ、笑えない映画ってどんなの?
金子●なんか、変に狙ってるっていうか…。あぁ、うまく口では言えないよぉ…(笑)。
姜●そうかぁ。でも俺らから見たら、この映画は狙いすぎってかんじかなぁ。
朴●在日映画っていうと、暗くて悲劇的で、「わたしたち悲しいの。お願い、あなたたちどうにかして」って映画が多かった。この映画には、もちろんそういう部分もあるけど、それもひっくるめて、食べやすくしてるって感じがする。
金子●そうですね。やっぱり受け入れられやすいかもしれませんね。
朴●これってすごく在日映画の進歩だよね。
姜●そうやね。この映画、ストーリーはそのままで、音楽なんかをチョチョッと変えたら、これとは逆のまったく悲しい映画ができるような気がする。最後のあたりの、社長が会社を燃やすシーンなんか、『プラトーン』みたいに全員、叫びながら逃げ出してね。「あ〜助けて〜」とかってね(笑)。
杉崎●そう。そういう要素も実は含まれてるっていうのをサラリとやってのけるところがすごいのよね。
金子●そうですよね。フィリピン人やイラン人の労働条件の厳しさとかね。自然な感じで出てましたもんね。
姜●けどこういうのって、俺はけっこう"ウッ"っていうヤな感じがする。
朴●そうなんだよねぇ。在日から見ると、こういう問題って、素直に手放しに評価すると、"えーっ"って感じがするみたいなんだよ。
高浜●でも、例えば日本人が見れば、何かこう、重要なことが詰まっている訳じゃない。今の外国人労働者とか、在日の問題とか。詰まっているんだけど軽く流せるから、友達にも「面白かったよ。見てごらん」って勧めることができる映画でしょ。そういう人が見てくれると、また、その人が何か関心を持って、こういう問題を理解しようとするでしょ。だから、よくわかってない日本人への発信としてよかったと思う。
一同●そうだね。
朴●「見て、見て」っていえるよね。でもいえない在日映画がたくさんあって。内輪で見てウルウルしちゃって、終わった後、みんなが乾杯って感じのがね。
姜●「明日から、また闘うぞ!」って一致団結して(笑)。
朴●けど、この映画は違っていて、勧められるよね。萩原君もでてるよって。
金子●変な役だったけど。
李●オチみたいな感じで出てたね。
姜●特に心に残っている場面ってある?
杉崎●「チューさん、金貸してくれよぉ」って言ってた人が、「チューさんは好きだけど朝鮮人は嫌いだ」って言って殴ったところ、なんか悲しかった。
高浜●結婚式ってあんな感じなの?わたし見て"えーっ"って思ったんだけど、会場って日本でしょ。日本で結婚式挙げるのに「いやぁ、朝鮮の歌はまずいですよ」とかって、本当にあるの?
姜・朴・李●まんまやな。
金子●服もみんな、あんな感じなんですか?チョゴリ着たり、踊ったり…。
姜●そのまんま。あれが文化だって感じやな。
知ったかぶりをする
日本人は見苦しい? ◆朴●萩原君とチューさんを見てどう思った?
杉崎●なんか、変に知ったかぶってるなって感じ。ああいう日本人て多いんだろうな。
金子●そうそう。オヤジとかに多そう。
高浜●表面とかしか知らなくて「大変だねえ」ってオヤジ。「キムチが好きなんだよぉ」っていう奴ね(笑)。
朴●結構、苦々しい思いで見ちゃう?なにか痛いっていうか、こういう人っているよね、とか?
金子●結構、耽ずかしいよね。本当はわかってないのに、わかっているふりをする。ちょっとしか知らないのに、すべてを知っているふりをしている。
姜●そのシーンで面白いのがさぁ、あんだけ卑怯なことされているのに、結局は「どうもありがとうございました」っていうところ。本当は怒り狂いたいのに我慢するところが、日本での在日の立場って感じがする。
朴●タクシー運転手とお客さんの関係を貫き通そうとしているところに、気合いを感じる。いい子になろうとするって感じ。昔よくいわれたのが、「おまえは朝鮮人なんだから、他人の3倍がんばらなあかん」みたいな。
金子●目立たなくてはいけないって?
朴●そう。「がんばっちゃう」みたいな感じに育てられた。
姜●最初のシーンで、すぐ会うのに携帯電話を使うところも、在日らしい感じがする(笑)。ありがち。かっこつけたがる。俺みたい(笑)。
朴●ステレオタイプ。けど、そういうのが多いから、集まると浮いちゃうよね。
金子●そういうことが原因で、いじめられたことあります?
朴●岸谷さんが不幸を捏造して「コニー、俺はさぁ−」ってシーンがあったでしょ。それと似てて、たとえば道徳の時間が終わったあと、「朴さん、今まで、いじめられたことあります?」って聞かれると、わたしも熱弁したくなるけど、実際はあんまりないよね?
姜・李●ない(笑)。
朴●けど最近、チョゴリの制服を切られる事件があったじゃない。あれに似たことは友達にあって、塩酸かけられた子もいたよ。
女子●ひどーい!
朴●わたしは1回ねぇ、チョゴリを着て歩いてたら、「鮮人」っていわれたのね。「朝鮮人」の「朝」をとってる訳だけど、それって差別用語なの。一瞬よくわからなくて、腹立つのが遅れちゃったんだけど、「ああ、差別だ」と思ってなにか言おうとして振り返ったら、その人、すごい汚れた格好の日雇い労働者で、言い返す気持ちなくなっちゃった。
李●萩原君みたいに気を遣ってるなあ、っていうのはよくある。正直に言ってくれる人のほうが言い返せる。
姜●差別意識丸出しの奴は、もういないんとちゃうかなぁ。ただ単に知らないとか。
チョゴリの事件が
生んだ変な同情心 ◆姜●あの事件があって、「あっ、チョゴリだ」って、わざと目をそらすことってない?
杉崎●友達が言ってたけど、普段なら別に意識してないのに、ああいうことがあってから、下手に意識するようになったよね、って。
金子●(チョゴリを着た人がいるのは)自然な光景なのに、あんな事件があって、変に同情心が生まれちゃって、かえってなんか…。
姜●俺はチョゴリの制服看てる子がおったら、「ひょっとしたら」と思って近づいて、「俺が守ったる」とか思うねん(笑)。けど、彼女らは「なんだよ、この人」みたいな目で見て、誤解されてるみたい。かえって(笑)。
姜●「チューさんは好きだけど朝鮮人は嫌いだ」ってところはどう思う?
金子●でも、結局は嫌いなんでしょ?
高浜●って言うか、意味わかって言ってんのかなぁ、あの人。ただ単に、朝鮮人嫌いだっていうのも、関数みたいに覚えているのと一緒で…。
朴●だから、差別意識の本質を言いたかったんだと思うよ。そんなもんだっていう感じで。頭からそういうふうに思い込んでいて、自分の意識の中のオリみたいなものがそれにくっついていて。好きだってのも本心だし、殴ったのも本心だし。
金子●ずーっと朝鮮人は嫌いだって言われてたら、すごい嫌でしょうねぇ。「チューさんは好きだけど朝鮮人は嫌いだ」って。結局チューさんも朝鮮人なわけなんでしょ?
姜●あれは、ホソだったからよかったんだよ。ホソだから、チューさん怒らなかったんだよ。すごいかわいそうな奴だと思って。
朴●わたしに「鮮人」と言ってた日雇い労働者と一緒で、「ああ、もうなんか、いいや」って感じ。まぁ、映画では、友情っていうのも含まれているから、ちょっと違うかもしれないけど。
姜●ホソって、コリアンにおりそうな名前やなぁ。
李・朴●それはホスや!!(笑)
自衛隊出の兄ちゃんは、
日本人の象徴? ◆姜●なにか気になるところってある?「あそこはどういう意味だったの」って。
金子●あぁ。なんかいっぱいあったのに…。忘れちゃいました(笑)。けどなんか難しかったような気がする。
姜●抽象的なところも多かったもんね。けど、そういうのを流して見ても面白かったんなら、やっぱりすごい映画なんやろうね。俺はねえ、あの自衛隊出の兄ちゃんおったやろ?これは絶対そうだって、前から思ってて、今日改めて見てんけど、つまり、彼が日本人の象徴で。ほら、彼が出て来るシーンって、東京タワーや両国や、富士山っていう、いかにも日本って感じなんだけど、そういうところで、道に迷っているところに、崔監督の皮肉が込められてるんかなぁって思った。
金子●自衛隊出の兄ちゃんが迷っているときに、「月はどっちに出ていますか」っていうところ。あれって、どういう意味なんですか。題名になっているくらいだから、すごい意味があるんじゃないのかなぁ。で、「東でも西でもなくって…」というシーンがあった。
姜●あれはどういう意味やったと思う?題名と内容の関係。
金子●あのシーンが、きっと監督にとっては重要だったんでしょ?
朴●わたしが思うには、月ってすごい高みにあって、これは高みから見下ろしてる映画なんだけどね。みんなかわいそうで、ヒーローはいない、みたいな。けど、最後の方、岸谷が怒っちゃったりして、ヒーローになってるかな、とか思った。最後まで気まぐれでいてほしかった。最後の方、熱くなってたよね。
姜●東とか西とかっていうのはどう思う?
朴●それは、人間が勝手に自然を決めつけたものでしょ。「月は」っていうんじゃなくて、「月」そのものが存在しているってことなんだよ。
姜●じゃあ、「どっちに」ってやつは?
朴●そう。「どっち」っていうのは人間。決定するのは人間で、それとは関係なく、月という高みから見下ろしましょう、って感じ。
金子●「月に向かって帰ってきてください」っていうのも、そういう意味があったのかなぁ。自衛隊の兄ちゃんが出てくるところ、結構好きですよ。
姜●あのシーンがテンポとってたね。最後ケンカしてたけど。
フィリピン人の存在が
在日コリアンの立場を変えた ◆姜●ルビー・モレノがいい感じだしてたよね。関西弁やし。なんで関西弁やったと思う?
朴●やっぱ面白いし、ルビーの演技がのびたっていうのもあるし、あとはやっぱり同化の度合いっていうか。ルビーの場合、長くいるせいもあるけど、「日本でやったるでー」みたいなところあるよね。でも、他のフィリピン人は「わたしたち、フィリピン人なんだから仕方ないじゃない。一緒にしないでよ」って言ってたよね。
金子●けど、結局最後の方は、帰りたい、帰りたいって言ってましたよね。
姜●フィリピン人が入ったことによって《日本人−在日》っていうビラミッドの層が一つ増えて、今まで日本人の層だったのが在日コリアンになって、在日コリアンの層にいたのがフィリピン人になって…。
朴●だからさぁ。在日っていう存在がフィリピン人になるわけよ。チューさんのオモニが「日本の風習を、ちょっとつかんでよ」ってところあったでしょ。日本人に対しては「在日」だけど、フィリピン人に対しては「日本人」なんだよ。それってアメリカでよく言われてるけどね。後から来たほうが弱いって。
高浜●ロス暴動ね。
朴●あれって下の者同士の闘いだったでしょ。上の人はなにも考えなくても順風満帆なんだけど。
姜●あれは最初、黒人と白人っていう対立関係やったのに、いつのまにか、コリアンの方に向かってたね。人間て面白いもんで、白人におさえつけられた黒人が白人に反発するんかと思ってたら、更に下に、怒りをぶつけるねんなぁ。だから日本でも外国人労働者が入ってきたことで、俺ら在日の立場がちょっと変わってきたよね。
朴●最近、外国人労働者を目の当たりにしてさぁ、自分は差別意識のない人間だと思ってたけど、見た瞬間に「怖い!近寄りたくない!」とかあるんだよね。
高浜●在日の中で上下ができたんだね。
金子●結局はみんな同じだと思うんだけどな。
悲劇だ、と思いつつも
生き残る在日コリアン ◆姜●最後の方のところで、社長が会社に火をつけて、ドタバタ喜劇でチャンチャン、っていうのが、在日には不評だけど。
高浜●あの社長、自分で自分の会社に火をつけて、自殺しようと思ってたんでしょ?
姜●それはわからんなぁ。
高浜●わたし、初めは死ぬかと思ったの。結構深刻な顔とかしてたし。椅子とかにガソリン撒いたり。したら最後に「早く消せー」っていうところで笑った。
姜●「消せー」っていうシーンのための、深刻な顔やったんと違う?
高浜●もちろんそうだとは思うけど、あれはなんていうか、ああいう時でも、「またやったるでぇ」っていうのを示したかったんじゃないかな。
朴●そうだね。在日っていうのは、悲劇だと思っているんだけど、結局生き残っちゃうんだよね。
高浜●あそこで、炎の中から出てくる、っていうのは、なにか意味があるんだろうね。
朴●死ねなかったんだよ。あれくらいのことじゃ。
高浜●なるほどね。
姜●そのシーンの終わりに、画面が引いていくじゃない。みんなあそこで終わりやと思わんかった?それでまた、次のシーンが始まるわけやけど、繰り返してるねんな。在日とフィリピン人が結婚しよう、って。
朴●結婚してないで。
姜●もちろん。そうじゃなくて、つかず、離れず、みたいなことやと思うけど。
朴●そうしていくしかないって感じ?
姜●そうそう。
朴●あれは繰り返すで。
姜●つくった人ってどう思ってるんやろうなぁ。まったくそんなこと考えてなくて、「勝手に深読みするな」とか思ってたりして(笑)。
★★
★★ ◆
まぁ、こんなところで終わりましょか。ピザも食い終わったことやし。ワンコリアフェスティバル東京は、絶対人手不足になると思うから、当日手伝ってください。今日はどうもありがとうございました。
●金子早苗(20)共立女子大学3年
●杉崎五十誉(20) 共立女子大学3年
●高浜みゆき(23)早稲田大学4年:フランスからの帰国子女
●朴芳玉(23)早稲田大学3年:朝群中学から日本の高校へ
●李相勲(23)早稲田大学4年:建国小学校から日本の中学・高校へ
●姜正斗(24)早稲田大学4年:小・中・高とも日本の学校に通名「神農正斗」で通う..............................................................................
(※すべて1994年現在です。)
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