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2004.10.24 )

第20回ワンコリアフェスティバルを迎えて
 ワンコリアフェスティバル実行委員会
                    実行委員長 鄭甲寿


 1985年の解放40周年を機に、統一への歴史の新たな展望を切り開こうと始められたワンコリアフェスティバルは、今年第20回という節目の年を迎えることができました。これも、これまで温かいご理解、ご賛同を下さった方々、貴重なご支援、ご協力を下さった皆様のお陰であり、ここに改めて厚くお礼申し上げます。
 この20年間、当フェティバルは、何より未来に向けたビジョンの重要性を強調し、1990年代に入って現在に至るビジョンを確立するに至りました。そのビジョンは、在日コリアンがまずハナ(ひとつ)となってワンコリアのシンボルになり、祖国南北、海外同胞のパイプ役としてワンコリアの実現に貢献するとともに、究極においては、世界市民に連なる「アジア共同体」を目指すというものであります。このビジョンが、東西ドイツ統一や冷戦体制の崩壊、グローバリズムとEUを始めとする地域統合の進展など、世界の激動に対応しつつ、その変化の方向を先取りするものであったことは、この20年間の歩みが証明しているところであります。また、このビジョンを具体化するために様々な「南北共演」に努めてまいりましたが、現在では各地で「ワンコリア」や「ハナ」を冠する催しや行事が展開されています。いまやワンコリアとハナは、在日コリアン同士の和解と交流、協力と統一の文字通りシンボルとなったといえるでしょう。
 また、当フェスティバルは、「ニューヨーク・ワンコリアフェスティバル」開催や韓国「議政府市・ワンコリアフェスティバル」との交流、さらには「東北アジア平和連帯」や「トゥレ共同体」など韓国のNGOとの連携のもとで、中国朝鮮族、在ロシア高麗人との交流も深めてきました。昨年は、韓国よりそうしたNGO中心の「ワンコリアフェスティバル訪問団」が訪日し、共同声明も発表しましたが、本年は、中国、ロシアからも訪問団に加わり、参加します。また、去る8月23日から30日、中国、北京と延辺で開かれた「東北アジア共同体」に関するシンポジウムにも招かれ、参加しました。グローバル化の進む国際社会において、文字通りグローバルな存在である600万人以上の豊かな多様性をもつ在外同胞、中でも東北アジアの在外同胞の役割は、今後ますます重要になるでしょう。統一に貢献することは勿論、東北アジアの地域協力、ひいては「アジア共同体」実現の触媒にもなれるでしょう。
 その「アジア共同体」構想も、さらに一段と現実的になってきました。韓国と日本の間で自由貿易協定(FTA)の2005年締結に向けた協議が、進行しています。韓国はASEAN(東南アジア諸国連合)とも、2009年を目標に、FTA締結交渉を開始することで合意しました。中国とASEANとの間では、FTA締結に向けた動きが加速化しています。
 昨年、インドネシアのバリ島で開かれた、一連のASEAN首脳会議、ASEAN+韓・日・中首脳会議、ASEAN・インド首脳会議において、ASEANとインド、ASEANと日本もまた、遅くとも2010年半ばにはFTAを核とする経済協力、連携を実現することに合意しました。先行する中国と合わせ、2010年代に史上最大の「30億人の自由貿易圏」が実現するということです。
 当フェスティバルは、10年以上前からアジアにおける地域統合の動きは不可避であると考え、「アジア共同体」実現を訴えてきましたが、いまや誰の目にもその可能性が見えてきたといえるでしょう。
 しかし、何より注目すべきは、ASEAN首脳会議で「ASEAN協和宣言U」が発表され、EUを参考に「東南アジア共同体」を目指すことが謳われ、民主主義が同共同体の基本理念であることをはじめて明記したことであります。これまでは東南アジアの政治指導者の中には、民主主義の普遍性に疑義を呈する傾向が時に見られただけに、画期的な内容であるといえるでしょう。当フェスティバルはこれまで一貫して、世界の進む方向をグローバル(地域統合)、リベラル(民主主義)、ヒューマニズム(人権)に収斂されていくであろうと指摘してきましたが、今一度確認できる歴史的出来事といえるでしょう。
 ところで、これらの動きに関連して、今後中国がますます存在感を増すであろうことが、いよいよ明白になってきました。中国はこのときのASEANとの首脳会議において、より一層緊密に地域協力を進めるための「戦略的パートナーシップ宣言」を発表し、さらに、インドとともに、不可侵条約的性格をもつ「東南アジア有効協力条約」(TAC)にも加盟しました。これに対し、対米関係、とくに日米安保条約への考慮から、TAC加盟要請に応じられなかった日本の姿勢に、ASEANから失望の声があがりました。しかし、この地域の安全保障と発展のためには、韓・日・中・ASEANのさらなる連携と協調が求められます。その意味で、同会議期間中に、韓・日・中三首脳による歴史上初の「韓・日・中共同宣言」が発表され、投資自由化、経済、安保分野での協力強化を明言したことは、一歩前進でもあるといえるでしょう。さらに、昨年12月、ASEAN首脳を招いて東京で初めて開かれた「日本・ASEAN首脳会議」において、日本が明確に「東アジア共同体」を目指すことを宣言したこと、時期は明言できなかったものの昨年は応じられなかったTAC加盟の意思を表明したことも、これらの動きと連動しているでしょう。いずれにしても、いまや「アジア共同体」は構想から現実へと進んでいます。
 そこで改めて当フェスティバルが目指す「アジア共同体」についていうならば、それは単なる経済統合ではなく、域内の経済格差の縮小から解消、環境問題や安全保障における協調、そして何より市民的権利と自由の普遍的実現、すなわち、究極においては「世界市民」に連なる「アジア市民」の創出を目指すものであります。いいかえれば、「アジア市民」こそ、「アジア共同体」の理念に他なりません。
 振り返れば、20世紀は、帝国主義と世界戦争、東西冷戦の時代でありました。しかし、21世紀は、先にも述べましたように、地域統合と民主主義、人権の時代となることがますます明らかになってきています。地域によっては、なお混乱と紛争が続くでしょうが、それも長い目で見れば、この世界の潮流に合流せざるをえないでしょう。
 そもそも地域統合は、20世紀に二つの大戦の舞台となったヨーロッパにおいて、二度と戦争を起こさない、何より恒久平和の構想として発案され、大戦後の市民社会の成長、それに伴う民主主義と人権確立の努力とともに進められているのであります。したがって、地域統合の究極の目標は、真の恒久平和、民主主義と人権の確立にこそあります。地域統合を進める過程では、地域間、各地域内、国家間、各国家内等において、時に深刻な政治的、経済的、社会的な利害対立と葛藤を経るでありましょう。だからこそ、その究極の目標を見失わず、常に想起し強調する必要があります。
 こうした目標と理念の伴わない経済のみのグローバル化は、経済格差を広げ、民主主義と人権を脅かす深刻な問題を引き起こすでしょう。あの、「9・11同時多発テロ」と反テロを口実とした、国連決議なしの米英による「イラク戦争」の深まる混乱は、まさにそのことを如実に示しているといえるでしょう。
 その米ブッシュ政権の「対北強硬政策」によって朝・米関係はきわめて危険な様相を呈してきました。米の強硬政策に対抗して朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国)は、「核開発計画」の継続を示唆し、緊張関係は一挙に高まりました。そのような状況のなかで、六者協議が開かれ、朝・米関係の緊張緩和、対話による平和的解決に向けた模索が続いています。最近、韓国における過去の「ウラン濃縮」「プルトニウム抽出」の実験が明らかになり、波乱要因として浮上していますが、速やかに解決し、関係諸国は、この六者協議を継続し東北アジア地域における安全保障の枠組みにまで発展させるべきでしょう。そうすることによって、これまで独自の枠組みをもたない世界でもまれな地域である東北アジア地域において、新たな地域的枠組みにつながる可能性があるといえるでしょう。
 ところで、「アジア共同体」実現にコリアと日本が貢献するためには、次のことが不可欠であることを、私たちは常に強調してきました。すなわち、私たちコリアは、自己統治能力を発揮して分断と対立を克服すること、日本は「脱亜入欧」的なアジア観を克服し、自浄能力を発揮して過去の明確な清算をすること、この二つであります。その意味で2000年6月の「南北共同宣言」は、分断と対立を克服する新たな課程の始まりであり、東アジアの新たな秩序構築の展望を開くものといえるでしょう。事実、南北間の対話と交流は画期的かつ着実に進展してきました。昨年の「大邱ユニバーシアード大会」、今年の「アテネオリンピック」などのスポーツ交流も活発であり、南北をつなぐ象徴とも言える「京義線」も連結し、陸路による金剛山観光も実現しました。しかし、何より現在建設中の「開城工業団地」は本格的な南北経済協力事業として南北の関係を一層前進させるでしょう。
 他方、日本も、先にみたようなアジアの急速な変化に対応せざるをえないでしょう。そうであるなら、より能動的に対応し、東アジアの平和と発展に日本のイニシアティブを発揮すべきでありましょう。そうしてこそ、アジア諸国との信頼関係を確固たるものにできるでしょう。そのためにも様々な問題を克服して、共和国との国交正常化を実現すべきであります。その意味で、昨年の9月に続いて今年5月にも、日本の小泉純一郎首相が共和国を訪問し、金正日総書記と二度目の朝・日首脳会談を行い、歴史的な「ピョンヤン宣言」を確認し、早期の国交正常化交渉再開に意欲を示したことは、歓迎すべきでしょう。ピョンヤン宣言には「東北アジア地域の平和と安定」のためにともに協力するという地域的枠組みへの関与を明記した画期的な表記があります。ここに示された大局的見地から「拉致問題」の解明と正常化交渉をすすめるべきでしょう。同交渉を進展させ、朝・日国交を樹立するなら、東北アジアはより安定し、同地域の平和と発展に、朝・日ともに大きく寄与することができるでしょう。
 さて、今年3月27日、当フェスティバル20年間の活動の成果とビジョンを基本として、やはり20年以上の活動実績がある「民族教育文化センター」と「在日韓国民主人権協議会」とともに「コリアNGOセンター」を設立しました。フェスティバルのビジョンの実現に向けてより一層力強く活動を展開していく所存でございます。
 当フェスティバルは、ワンコリアのビジョンと「ハナ」「ワンコリア」のイメージを拡げるために努めてまいりましたが、今回も21世紀のワンコリアとアジア共同体の実現に向けて「ハナ」を高らかに謳い、ワンコリアをアジアの平和と発展を、国際社会に力強くアピールします。
 皆さん、ともにワンコリア、ワンアジアの未来を切り開いていきましょう。

  ハナ!

 2004年10月
ワンコリアフェスティバル実行委員会



 
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