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1998 第十四回 /東京:上野公園水上音楽堂 大阪:服部緑地野外音楽堂 )

第14回ワンコリアフェスティバルにあたって
 実行委員長 鄭甲寿

  ワンコリアフェスティバルは、去る1985年の「解放40年」を機に始められ、今年第14回目を迎えました。
  これまで暖かいご理解、ご賛同をくださった方々、貴重なご協力、ご支援をくださった皆様に、ここに改めて厚く御礼申し上げます。

  当フェスティバルは、統一への歴史の新たな展望を切り開こうと、発想の転換を訴え、未来志向と創造的なアプローチを強調してきました。その模索の中からまったく新しい独自な発想のビジョンが生まれてきました。それは、在日コリアンこそまずハナ(ひとつ)となってワンコリアのシンボルとなり、祖国南北、海外コリアンの間のパイプ役としてワンコリアの実現に寄与するとともに、「アジア市民」創出のための「アジア共同体」を展望するものです。それは究極において「地球市民」に連なるものでありましょう。したがって、このビジョンは、そうした未来を切り開く普遍的で積極的、能動的な在日コリアン像を提示するものであります。
  まずなにより祖国の分断を反映して韓国民団・朝鮮総連に分裂しているものの「38度線」のない日本で生活しているために互いに会うことができ、こうした条件を生かせば、統一のモデルとなることができます。
  そしてまた、海外に居住し、国籍も一様でない在日コリアンは、それゆえむしろ「国境」を越えた発想ができ、より広い視野で人権と民主主義を考えることができます。そうした発想と視野から「アジア共同体」の展望も生まれてきたといえます。というのも当フェスティバルが唱える「アジア共同体」とは、経済的統合とともに、各民族文化の相互尊重と交流、域内の経済格差の縮小から解消、環境問題や安全保障における協調、そしてなにより自由や人権、民主主義などの市民的権利のアジアにおける普遍的実現を意味するものであるからであります。EU(ヨーロッパ連合)やNAFTA (北米経済機構)、EAEC(東アジア経済協議体)などの地域統合の動きも、単なる経済的統合にとどまらず、EUにおける「ヨーロッパ市民」形成に見られように、地域内における市民的権利のより普遍的な実現という方向に進むものと思われます。
  それは世界的な視野でみれば、冷戦体制崩壊後の激動、すなわち東欧・旧ソ連の変革、東西ドイツの統一、南アフリカ連邦共和国におけるアパルトヘイト(人種隔離政策)の廃止とマンデラ政権の樹立、パレスチナとイスラエルとの和平の模索、北アイルランドにおける和平合意など、世界の一連の動きと連なるものでありましょう。このような世界の動きはもはや国境や民族、人種の違いを越えた流れであり、要約すれば世界はますますグローバル(国境を越える統合)、リベラル(民主主義的)、ヒューマニズム(人権尊重)を求める方向に進んでいるといえましょう。
  さらに、インターネットの急速な進歩と普及は、こうしたグローバル化を一層促進するものでありましょう。
  しかし、アジアでは経済危機や核開発競争など混乱と緊張が激化しているのも事実です。その中で、祖国の南北はそれぞれ、金融・通貨危機、食糧危機という非常な困難に直面しています。
  文字通りグローバルな存在である500万人以上の海外コリアンには、こういう時期だからこそなおのこと、民族の命運を共に担う目的意識的な役割が一層求められています。世界各国、各地域の科学、技術、文化、情報等に接し理解、吸収することができ、その価値観も多様な海外コリアンは、わが民族のバランスのとれた発展にとって今後益々重要な存在となるでしょう。
  そうした海外コリアンの役割を現実化する第一歩として、かねてより準備を進めてきたアメリカ・ニューヨークでの開催がついに実現いたしました。在米コリアンの主体的な取り組みにより、本年8月15日、「ラガーディア・パフォーミング・アートシアター」において『祖国光復53周年記念ワンコリアフェスティバル』が開催されました。日本におけると同様アメリカでも「8・15」を出発としたことは、「開放」「光復」の歓喜において民族はハナ(ひとつ)だった原点から、あらためて統一の未来に向けた再出発を期そうという決意の表われにほかなりません。これを機に、当フェスティバルのビジョンの実現に向け、海外コリアンとの連携を一層力強く推し進めてゆく決意であります。
  これまで当フェスティバルは、祖国南北の共演、総連・民団傘下団体の共演、立場や国籍の違いを越えた参加と協力、賛同と共感を得てまいりました。幸い90年代に入って在日コリアンどうしの和解に向けた動きも徐々に増えており、日本各地で繰り広げられている二世、三世による新しい形の運動や文化活動の多くも統一を志向し、既成の団体との連携、協調も見られるようになってきました。こうした動きがますます活発になることを願うとともに、当フェスティバルもその一翼として、様々な和解と統一への努力に対し、熱いエールを送るものであります。
  また「2002年ワールドカップ韓日共催」に対して、祖国と日本の架け橋を担うべき在日コリアンとして、当フェスティバルとしても共催成功に向けて積極的な役割を果たしたいと思っています。とくに南北統一チームによる参加や共和国でも一部開催することが望ましいと考えています。それが東アジアの平和と発展に寄与すると考えるからです。
  また、共和国における大水害発生以来、当フェスティバルとしては、共和国に対する人道的な食糧支援活動が、南北の対話と交流にも肯定的な影響を及ぼすことを願ってきたところですが、先日、鄭周永現代名誉会長が牛500頭を連れ板門店を通って往来したことも、その表れの一つとして歓迎したいと思います。なお、微力ながら当フェスティバルとしても義援金(95年356,974円、96年275,470円、97年500,162円)を「朝鮮の子どもにタマゴとバナナをおくる会」(会長三木睦子)に送らせて頂きましたことをご報告申しあげます。
  当フェスティバルは、以上のように世界の激動をふまえ、その変化の方向を展望し、普遍的な視野で「アジア共同体」の実現をめざすがゆえに、私達コリアと日本にとって重要な課題を提起するものであります。それは、アジアの平和を脅かしているコリアの分断状況の克服と、日本の明治以来の「脱亜入欧」的なアジア観の克服であります。そのためには日本は、アジアに対する過去の歴史を直視し、アジアとの歴史認識の共有を図り、そうした認識を歴史教育に反映させるべきでしょう。とくに、いまだ不十分な「戦後補償」などの過去の精算に対しても、歴史的な対応が求められています。そうした自浄能力を発揮してこそ、日本はアジアから信頼され、「アジア共同体」実現に向けて積極的な役割を果たせるのであります。一方私達コリアンは民族統一を実現できる自己統治能力を示してこそ「アジア共同体」実現に向けて積極的な役割を果たせるでしょう。
  当フェスティバルは、以上のような発想と考えをシンボリックに表現する場であり、その思いを込めた「ハナ」「ワンコリア」のイメージを拡げるために開催するものです。大阪から始まり、東京、そしてニューヨークへと広がった当フェスティバルは、今回も「ハナ」を高らかに謳い、ワンコリアを、そしてアジアの平和と発展を国際社会に力強くアピールします。
  皆さん、ともにワンコリアの未来を切り開いていきましょう。
  ハナ!


 
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