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1997 第十三回 /東京:上野公園水上音楽堂 大阪:服部緑地野外音楽堂 )

第13回ワンコリアフェスティバルにあたって
 実行委員長 鄭甲寿

  ワンコリアフェスティバルは、去る1985年の「解放40年」を機に始められ、今年13回目を迎えました。
  これまで暖かいご理解、ご賛同をくださった方々、貴重なご協力、ご支援をくださった皆様に、ここに改めて厚く御礼申し上げます。

  当フェスティバルは、統一への歴史の新たな展望を切り開こうと、発想の転換を訴え、未来志向と創造的なアプローチを強調してきました。その模索の中からまったく新しい独自な発想のビジョンが生まれてきました。それは、在日コリアンこそまずハナ(ひとつ)になってワンコリアのシンボルとなり、祖国南北、海外コリアンの間のパイプ役としてワンコリアの実現に寄与するとともに、「アジア市民」創出のための「アジア共同体」を展望するものです。それは究極において「地球市民」に連なるものでありましょう。したがって、このビジョンは、そうした未来を切り開く普遍的で積極的、能動的な在日コリアン像を提示するものであります。

  在日コリアンは海外に居住し、国籍も一様ではないために、むしろ「国境」を超えた発想ができ、また民族差別を受けてきているために、人権と民主主義を切実に求めざるを得ません。そしてなにより祖国の分断を反映して韓国民団・朝鮮総連に分裂しているものの「38度線」のない日本で生活しているために互いに会うことができ、こうした条件を生かせば、統一のモデルとなることができます。さらに祖国と日本をともに深く理解できる在日コリアンは、両国の架け橋となることができます。
  そして「アジア共同体」とは、経済的統合とともに、各民族文化の相互尊重と交流、域内の経済格差の縮小から解消、環境問題や安全保障における協調、そしてなにより自由や人権、民主主義などの市民的権利のアジアにおける普遍的実現を意味するものであります。EU(ヨーロッパ連合)やNAFTA(北米経済機構)、EAEC(東アジア経済協議体)などの地域統合の動きも、単なる経済的統合にとどまらず、EUにおける「ヨーロッパ市民」形成に見られるように、地域内における市民的権利のより普遍的な実現という方向に進むものと思われます。
  また、昨年開かれた第一回ASEM(アジア・ヨーロッパ首脳会議)および先日開かれたASEM外相会議は、かつて植民地と宗主国であったこともあるアジアとヨーロッパが、今や対等な関係になりつつあることを物語っています。また同会議に参加していない朝鮮民主主義人民共和国(以下共和国)が、同会議をASEAN(東南アジア諸国連合)主導で成功したと評価したことも注目されます。そのASEANはいまや体制の異なるベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーまで加えた十ヶ国による「東南アジア共同体」構想を具体的に推進しているのであります。まさしく当フェスティバルの提唱する「アジア共同体」は、もはや実現不可能な理想ではありません。
  それは世界的な視野でみれば、冷戦体制崩壊後の激動、すなわち東欧・ソ連の変革、南アフリカ連邦共和国におけるアパルトヘイト(人種隔離政策)の廃止とマンデラ政権の樹立、現在イスラエルの東エルサレムヘの植民の動きをめぐって緊張しているとはいえ、パレスチナとイスラエルとの和平の模索など世界の一連の動きも、このような地域統合の動きと連なるものでありましょう。このような世界の動きはもはや国境や民族、人種の違いを超えた流れであり、要約すれば世界はますますグローバル(国境を超える統合)、リベラル(民主主義的)、ヒューマニズム(人権尊重)を求める方向に進んでいるといえましょう。
  さらに、人類史上産業革命以来のマルチメディア情報革命といわれる、パソコン、衛星放送を通じてのインターネットの急速な進歩と普及は、こうしたグローバル化を一層促進するでありましょう。
 こうした世界の流れにおいて、すでに述べた特性と条件をもつ在日コリアンこそ、ますます普遍性をもった存在としてその役割はさらに重要性を増すと私達は考えます。そうした役割の一環として当フェスティバルは、祖国南北に対しても民族愛とともに人類愛に立って「批判せず、代弁せず」という姿勢を貫きながら、祖国南北、総連・民団をはじめとする様々な団体、個人の間のパイプ役となれるよう努めてまいりました。また、日本の各界・各層の皆様の支持と賛同を得られるよう努めてまいりました。
   幸いにも当フェスティバルはこの間、祖国南北の共演、総連、民団傘下団体の共演、海外コリアンの出演、日本をはじめ様々な国からの出演など、立場や国籍の違いを超えた参加と協力、賛同と共感を得てまいりました。嬉しいことに、「ワンコリアパレード」(京都民団・総連)のように、90年代に入って在日コリアンどうしの和解に向けた動きも徐々に増えており、日本各地で繰り広げられている二世、三世による新しい形の運動や文化活動の多くも統一を志向し、既成の団体との連携、協調も見られるようになってきました。こうした動きはますます活発になることでしょう。当フェスティバルもその一翼を担うとともに、様々な和解と統一への努力に対し、熱いエールを送るものであります。
  また「2002年ワールドカップ韓日共催」に対しても、祖国と日本の架け橋を担うへき在日コリアンとして当フェスティバルとしても共催成功に向けて積極的な役割を果たしたいと思っています。特に共和国も参加することが望ましいと考えています。それが東アジアの平和と発展に寄与すると考えるからです。
  その意味で、共和国の大水害に対しても、人道的な救援活動が、全同胞的にも国際的にも広がり、それが南北の対話と交流にも肯定的な影響を汲ぼすことを願ってやみません。なお、微力ながら当フェスティバルとしても義援金(95年356.974円、96年275.470円)を「朝鮮の子どもにタマゴとバナナをおくる会」(会長∵三木睦子)に送らせて頂きましたことをご報告申しあげます。
  当フェスティバルは、以上のように世界の激動をふまえ、その変化の方向を展望し、普遍的な視野で「アジア共同体」の実現をめざすがゆえに、私達コリアと日本にとって重要な課題を提起するものであります。それは、アジアの平和を脅かしているコリアの分断状況の克服と、日本の明治以来の「脱亜入欧」的なアジア観の克服であります。そのために日本は、アジアに対する過去の歴史を直視し、アジアとの歴史認識の共有を図り、そうした認識を歴史教育に反映させるべきでしょう。とくに、いまだ不十分な「戦後補償」などの過去の精算に対しても、歴史的な対応が求められています。そうした自浄能力を発揮してこそ、日本はアジアから信頼され、「アジア共同体」の実現に向けて積極的な役割を果たせるでしょう。一方私達コリアンは民族統一を実現できる自己統治能力を示してこそ「アジア共同体」の実現に向けて積極的な役割を果たせるでしょう。
  当フェスティバルは以上のような発想と考えをシンポリックに表現する場であり、その思いを込めた「ハナ」「ワンコリア」のイメージを拡げるために開催するものです。今回も当フェスティバルは「ハナ」を高らかに謳い、ワンコリアを、そしてアジアの平和と発展を国際社会に力強くアピールします。  皆さん、ともにワンコリアの未来を切り開いていきましょう。   ハナ!


 
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