( 1999 第十五回 /東京:上野公園水上音楽堂 大阪:コリアタウン )
第15回ワンコリアフェスティバル開催に向けて
ワンコリアフェスティバル実行委員会 実行委員長 鄭甲寿
去る1985年の「解放40年」を機に、統一への歴史の新たな展望を切り開こうと始められたワンコリアフェスティバルも、今年は15回という節目の年を迎えました。
これまで暖かいご理解、ご賛同をくださった方々、貴重なご協力、ご支援をくださった皆様に、ここに改めて厚く御礼申し上げます。
当フェスティバルは、発足当初「8・15民族・未来・創造フェスティバル」と銘打ったように、何より、未来志向と創造的なアプローチを強調してきました。それは、「北か南か」「祖国指向か在日指向か」「統一か反差別か」等の様々な二項対立を越えるために、新たな方法とビジョンを創造しなければならないこと、そのためには発想の転換が求められていることを訴えるためでした。そうした模索の中からまったく新しい独自の発想のビジョンが生まれてきました。それは、「38度線」のない日本で生活する在日コリアンこそまずハナ(ひとつ)となってワンコリアのシンボルとなり、祖国南北、海外コリアンの間のパイプ役としてワンコリアの実現に寄与するとともに、「アジア市民」創出のための「アジア共同体」(AC)を展望するというものです。それは究極において「地球市民」に連なるものでありましょう。したがって、このビジョンは、そうした未来を切り開く普遍的で積極的、能動的な在日コリアン像を提示するものであります。
いいかえれば、在日コリアンは、海外に居住し、国籍も一様でないがゆえに、むしろ「国境」を越えた発想ができ、より広い視野で平和や人権、民主主義等を考えることができるということです。そうした発想と視野からEU(ヨーロッパ連合)に注目し、「アジア共同体」の展望も生まれてきたといえます。EUは、まず何より、二度も世界大戦の戦場となったヨーロッパにおける平和の構想であり、その目指すところは、ヨーロッパにおける市民的権利の普遍的実現である「ヨーロッパ市民」の形成であります。したがって当フェスティバルが唱える「アジア共同体」とは、まず第一にアジアにおける平和の構想であり、より具体的には経済的統合とともに、各民族文化の相互尊重と交流、域内の経済格差の縮小から解消、環境問題や安全保障における協調、そしてなにより自由や人権、民主主義などの市民的権利のアジアにおける普遍的実現すなわち「アジア市民」の創出を意味するものであります。「東南アジア共同体」構想やEAEC(東アジア経済協議体)などのアジアにおける現実の地域統合の動きも、そうした方向に進むべきでありましょう。
地域統合の動きはまた、冷戦体制崩壊後の激動、すなわち東欧・旧ソ連の変革、東西ドイツの統一、南アフリカ連邦共和国におけるアパルトヘイト(人種隔離政策)の廃止とマンデラ政権の樹立、パレスチナとイスラエルとの平和の模索、北アイルランドにおける和平合意など、世界の一連の動きと連なるものでありましょう。このような世界の動きはもはや国境や民族、人種の違いを越えた流れであり、要約すれば世界はますますグローバル(国境を越える統合)、リベラル(民主主義的)、ヒューマニズム(人権尊重)を求める方向に進んでいるといえましょう。
さらに、インターネットの急速な進歩と普及は、こうしたグローバル化を一層促進するものでありましょう。
しかし、アジアでは経済危機や核開発競争など、混乱と緊張が激化しているのも事実です。その中で、祖国の南北はそれぞれ、金融・通貨危機、食糧危機という非常な困難に直面しています。
文字通りグローバルな存在である500万人以上の海外コリアンには、こういう時期だからこそなおのこと、民族の命運を共に担う目的意識的役割が一層求められています。世界各国、各地域の科学技術、文化、情報等に接し理解、吸収することができ、その価値観も多様な海外コリアンは、わが民族のバランスのとれた発展にとって今後益々重要な存在となるでしょう。
そうした海外コリアンの役割を現実化する第一歩として、昨年8月15日、米国ニューヨークにおいて「祖国光復53周年記念ワンコリアフェスティバル」が開催されました。今後とも、当フェスティバルのビジョンの実現に向け、海外コリアンとの連携を一層力強く推し進めてゆく決意であります。
これまで当フェスティバルは祖国南北の共演、総連・民団傘下団体の共演、立場や国籍の違いを越えた参加と協力、賛同と共感を得てまいりました。幸い90年代に入って在日コリアンどうしの和解に向けた動きも徐々に増えており、日本各地で繰り広げられている二世、三世による新しい形の運動や文化活動の多くも統一を志向し、既成の団体との連携、協調も見られるようになってきました。こうした動きがますます活発になることを願うとともに、当フェスティバルもその一翼として、様々な和解と統一への努力に対し、熱いエールを送るものであります。
また、当フェスティバルは「2002年ワールドカップ韓日共催」に対しても、共催成功はもちろん、さらには南北統一チームによる参加や共和国における一部開催も望んできたところですが、その意味で、最近FIFA(国際サッカー連盟)が韓国側の要請を受けて共和国における一部開催を認めたことを歓迎したいと思います。それが実現すれば東アジアの平和と発展に大さく寄与することになるでありましょう。
また現代グループによる「金剛山観光」が実現し、すでに数万人の韓国人が共和国を訪れたことは画期的なことであり、こうした訪問が、共和国に対する人道的な食糧支援とともに、南北の対話と交流にも肯定的な影響を及ぼすことを願っています。
ふり返れば、当フェスティバルはこの15年間、先に述べたような世界の劇的な変化の中で、世界の激動とともにあゆんできました。そして、何よりその変化の方向を見極め、その方向に沿ったビジョンとメッセージを発信することに努めてきました。そして、そのビジョンの実現をめざすがゆえに、私達コリアンと日本にとって重要な課題を提起してきました。それは、アジアの平和を脅かしているコリアの分断状況の克服と、日本の明治以来の「脱亜入欧」的なアジア観の克服であります。そのためには日本は、アジアに対する過去の歴史を直視し、アジアとの歴史認識の共有を図り、そうした認識を歴史教育に反映させるべきでしょう。とくに、いまだ不十分な「戦後補償」などの過去の精算に対しても、歴史的な対応が求められています。そうした自浄能力を発揮してこそ、日本はアジアから信頼され、「アジア共同体」実現に向けて積極的な役割を果たせるのであります。一方私達コリアンは民族統一を実現できる自己統治能力を示してこそ「アジア共同体」実現に向けて積極的な役割を果たせるでしょう。
当フェスティバルは、以上のような発想と考えをシンポリックに表現する場であり、その思いを込めた「ハナ」「ワンコリア」のイメージを拡げるために開催するものです。大阪から始まり、東京、そしてニューヨークヘと広がった当フェスティバルは今回も「ハナ」を高らかに謳い、ワンコリアを、そしてアジアの平和と発展を国際社会に力強くアピールします。皆さん、ともにワンコリアの未来を切り開いていきましょう。
ハナ!
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