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1996 第十二回 /東京:上野公園水上音楽堂 大阪:服部緑地野外音楽堂 )

第12回ワンコリアフェスティバルにあたって
 実行委員長 鄭甲寿

  ワンコリアフェスティバルは、去る1985年の「解放40年」を機に始められ、以来、毎年回を重ね、昨年の「解放50年」を経て、今年第12回を迎えました。
  これまで暖かいご理解、ご賛同をくださった方々、貴重なご協力、ご支援をくださった皆様に、ここに改めて厚く御礼申し上げます。

  さて、「解放40年」からさらに10年、「解放50年」を過ぎても、いまだ私達の祖国コリアは、分断を克服できずにいます。だからこそ当フェスティバルは、統一への歴史の新たな展望を切り開いていくために、発想の転換を訴え、未来志向と創造的なアプローチを強調してきました。その模索の中から、まったく新しい独自な発想のビジョンが生まれてきました。 それは、在日コリアンこそまずハナ(ひとつ)となってワンコリアのシンボルとなり、祖国南北、海外コリアンの間のパイプ役としてワンコリアの実現に寄与するとともに、「アジア市民」創出のための「アジア共同体」を展望するものです。それは究極において「地球市民」に連なるものでありましょう。したがって、このビジョンは、こうした未来を切り開く普遍的で積極的、能動的な在日コリアン像を提示するものでもあります。
  在日コリアンは海外に居住しているために、「国境」を超えた発想ができ、また依然として民族差別を受けているために、人権と民主主義を切実に求めざるを得ません。そして何より祖国の分断を反映して民団・総連に分裂しているものの「38度線」のない日本で生活しているために互いに会うことができ、こうした条件を活かせば、統一のモデルとなることができます。さらに祖国と日本をともに深く理解できる在日コリアンは、両国の架け橋となることができます。
  それは世界史的な視野で見れば冷戦体制崩壊後の激動、とくに東欧・ソ連の変革、EU<ヨーロッパ連合>の成立をはじめとする地域統合の動き、南アフリカ連邦共和国におけるアパルトヘイト<人種隔離政策>の廃止とマンデラ政権の樹立、パレスチナとイスラエルの和平の模索など、世界のー連の動きと連なるものでありましょう。このような世界の動きは国境や民族、人種の違いを超えた流れであり、要約すれば世界はますますグローバル、リベラル、ヒューマニズムを求める方向に進んでいるといえましょう。 こうした世界の流れにおいて在日コリアンの役割は、さらに重要性を増すと私達は考えます。そうした役割の一環として当フェスティバルは祖国南北に対しても民族愛とともに人類愛に立って「批判せず、代弁せず」という姿勢を貫きながら祖国南北、総連・民団をはじめとする様々な団体、個人の間のパイプ役となれるよう努めてまいりました。 幸いにも当フェスティバルはこの間、祖国南北の共演、総連・民団傘下団体の共演、海外コリアンの出演、日本をはじめ様々な国からの出演など、立場や国籍の違いを越えた参加と協力、賛同と共感を得てまいりました。嬉しいことに、「ワンコリアバレード」(京都民団・総連)のように、90年代に入って在日コリアンどうしの和解に向けた動きも徐々に増えており、日本各地で繰り広げられている二世、三世による新しい形の運動や文化活動の多くも統一を志向し、既成の団体との連携、協調もみられるようになってきました。こうした動きはますます活発になることでしょう。当フェスティバルもその一翼を担うとともに、様々な和解と統一への努力に対し、熱いエールを送るものであります。

  ところで、先日「2002年ワールドカップ韓日共催」が決まりましたが、祖国と日本の架け橋を担うべき在日コリアンとして当フェスティバルとしても共催成功に向けて積極的な役割を果たしたいと思っています。とくに朝鮮民主主義人民共和国も共催に参加することが望ましいと考えています。それが東アジアの平和と発展に寄与するばかりでなく、「アジア共同体」の展望を切り開く上でも大きな意義を持つと考えるからです。 当フェスティバルが提唱する「アジア共同体」とは、経済的統合とともに、各民族文化の相互尊重と交流、域内の経済格差の縮小から解消、環境問題や安全保障における協調、そしてなにより、自由や人権、民主主義などの市民的権利のアジアにおける普遍的実現を意味するものであります。EUやNAFTA(北米経済機構)、EAEC(東アジア経済協議体)などの地域統合の動きも、単なる経済的統合にとどまらず、EUにおける「ヨーロッパ市民」形成に見られるように、地域内における市民的権利のより普遍的な実現という方向に進むものと思われます。
  また、今年三月に開かれた第一回ASEM(アジア・ヨーロッパ首脳会談)は、かつて植民地と宗主国であったこともあるアジアとヨーロッパが対等な関係になりつつあることを世界に強く印象づけました。さらに同会議に参加していない朝鮮民主主義人民共和国が、同会議をASEAN(東南アジア諸国連合)主導で成功したと評価したことも注目されます。そのASEANはいまや体制の異なるベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーまで加えた10カ国による「東南アジア共同体」構想を具体的に推進しているのであります。まさしく当フェスティバルの提唱する「アジア共同体」は、もはや実現不可能な理想ではありません。 とはいえ、「アジア共同体」の実現には、もちろん様々な困難な問題があります。中でも東アジアにおいて、私達コリアと日本には、とくに重要な課題があります。それは、アジアの平和を脅かしているコリアの分断状況の克服と、日本の明治以来の「脱亜入欧」的なアジア観の克服であります。 日本は、アジアに対する過去の歴史を直視し、アジアとの歴史認識の共有を図り、そうした認識を歴史教育に反映させるべきでしょう。とくに、いまだ不十分な「戦後補償」などの過去の精算に対しても、歴史的な対応が求められています。そうした自浄能力を発揮してこそ、日本はアジアから信頼され、「アジア共同体」実現に向けて大きな役割を果たせるのではないでしょうか。 私達コリアンは、民族統一を実現できる自己統治能力を示してこそ、「アジア共同体」実現に向けてより積極的な役割を果たせるでしょう。

  当フェスティバルは以上のような発想と考えをシンボリックに表現する場であり、その想いを込めた「ハナ」「ワンコリア」のイメージを拡げるために開催するものです。今回も当フェスティバルは「ハナ」を高らかに謳い、ワンコリアを、そしてアジアの平和と発展を国際社会に力強くアピールします。
  皆さん、ともにワンコリアの未来を切り開いていきましょう。
  ハナ!


 
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