『最近の韓半島情勢と東アジア』

金 学 俊 (韓国教員団体総連合会会長)

フォーラム(※『21世紀のワンコリアと東アジア』)に先立って、
韓国より来日された金学俊先生の緊急講演がもたれた。



 

 1.はじめに

 最近の韓半島には、新しくて重大な、肯定的な情勢が醸成されている。南北首脳会談の開催によって、和解と協力の契機が整えられたという事実がそれである。韓国の金大中大統領は、現在の韓半島情勢を「新千年代韓半島の奇跡」と表現していたが、それは間違いなくその通りである。南と北の間には、新しい発展が次々と展開されており、そのことは韓半島でいよいよ冷戦構造が崩れ去ることを意味し、遠くない将来平和構造の構築が可能となる展望を生み出しているのである。
 この重大な時代的転換点でこの論文は、まず南北首脳会談の成立背景と成果を分析し、以後に展開された南北関係を説明しようとする試みである。この論文は、締めくくりの段階で、韓半島の新しい情勢が東アジアに与える影響について言及しようとする。


 2.南北首脳会談の成立背景

 韓国は、1981年以後一貫して南北首脳会談の開催を北朝鮮に求めた。しかし、北朝鮮は応じてなかった。ならば、北朝鮮はなぜこの時点で、韓国の要求に応じたのだろうか。

 一、韓半島をめぐっての国際環境の変化である。1989年、ベルリンの壁の崩壊を契機として、旧ソ連邦を始めとした社会主義政権が崩れ去り、世界的次元での統治制度としての社会主義体制は没落した。これにより、第2次世界大戦後、激化してきたイデオロギーの終焉と同時に冷戦は幕を閉じた。その代わりに、和解と協力の気運が世界的に拡散したのである。そのような国際潮流がついに「冷戦の最後の孤島」である韓半島にも上陸したのである。

 二、これと軌を一にしているのが韓半島の周辺4カ国(アメリカ、ロシア、中国、日本)の北朝鮮に対する強い勧告である。彼らは北朝鮮に、韓国が言い続けてきた南北首脳会談を受け入れ、それを契機として経済的支援を受け入れるよう持続的に要求してきたのである。ここでは中国の役割が大きかった。数年間に渡って、食料と原油を援助してきた中国は、これ以上の支援は続けられないことを通告し、北朝鮮が自らの活路を南北協力に見出すよう、強く勧告したと言われている。

 三、韓国政府の一貫した太陽政策である。金大中大統領は1998年2月の就任直後から太陽政策という名のもとで、一貫して北朝鮮に対して和解と協力の政策を進めてきた。国内の保守勢力の反発にも屈せず、北朝鮮に対して食料と肥料援助を続け、とくに現代グループの金剛山観光の実現を通して北朝鮮に多くのドルを提供した。金大中政府のこのような政策は北朝鮮の首脳部を動かしたと見られる。

 四、一番重要なポイントは、北朝鮮の経済的危機である。北朝鮮がどれほど深刻な経済危機に追い込まれているかについては、多くの論文と報告書が出ているため、ここで論ずる必要はない。1990年から1998年まで毎年マイナス成長を続けている北朝鮮の経済危機はあまりに深刻で、このような状態が何年も続けば、国家機能の全面的麻痺をきたすのである。


 3.南北共同宣言の内容と意義

 このような背景から、2000年6月13日から15日まで、ピョンヤンで南北首脳会談が開かれ、15日に5項目の南北共同宣言が発表された。この共同宣言は「大韓民国の大統領金大中」と「朝鮮民主主義人民共和国の国防委員長金正日」という公式の国号と公式職名を使うことによって、南北相互の体制を事実上公式化したのである。

 一、南北は自主原則のもとで統一を志向していくことに合意した。これは当然である。分断の当事者である南北が、また同じ民族である南と北が、統一の原則として自主の原則を表明したことには誰も意義を唱えないだろう。

 二、南と北は今まで韓国側が提議した「国家連合制」と北朝鮮が提議した「緩やかな段階での連邦制」に共通点があると認めた。「国家連合制」と「緩やかな段階での連邦制」は、ともに統一に至るまでの暫定的な中間段階である。したがって、南と北は完全な統一を達成するまでは暫定的な中間段階が必要になることを認めた。これは重要な意味を持つ。南北双方が統一に達するまでの暫定的な中間段階を設ける必要性を認めたことは、南と北の双方が短期間での統一を放棄したことを意味している。

 三、南と北とは朝鮮戦争中に発生した離散家族の再会のために努力していくことに合意した。実際に2000年8月15日、日帝からの解放55周年を機に、南北の離散家族100名ずつがピョンヤンとソウルを訪問し、再会を果たした。離散家族の再会は、2000年末まで少なくとも2回は実現することに合意し、韓半島内部の適切な場所に面会所をもうけることが予想される。

 四、南と北は、経済協力を通して民族経済の均衡的な発展を図ることに合意した。この合意により、とくに北朝鮮の経済使節団が2000年の秋に韓国を訪れたことを契機として、その具体的な実践方案について真剣な協議が行われている。代表的なこととしては京義線の復旧事業で、予定通り2001年に完成すれば、南北間の物流の交流が活発になるだろう。

 五、南と北は閣僚会談を定期的に開くことで合意した。これは南北関係の公式化を意味する。2000年9月中旬まで南北閣僚会談は2回開かれた。

 以上の5項目の合意に付け加えて、韓国は北朝鮮の金正日国防委員長のソウル訪問を要請し、北朝鮮はこれを受け入れた。金正日国防委員長のソウル訪問の前に、北朝鮮の朝鮮労働党秘書局の秘書兼中央委員であり、対南事業部長で、アジア太平洋委員長である金容淳が2000年9月中旬にソウルを訪問した。この時開かれた南北間の会談で金正日国防委員長のソウル訪問が、2001年の春には実現することに合意した。


 4.南北共同宣言の問題点

 確かに、南北共同宣言は確実に韓半島の分断55年の歴史上、高い位置を占める画期的な文書である。この宣言は南と北が相互交流と協力の基礎の上で、平和統一に向けて目指していくべき道を南北首脳のレベルで明からにした大きな成果であるといえよう。
 しかし、この文書にはいくつか論争点が含まれている。その中から重要なものを指摘しておくことにする。

 一、韓半島の平和構造の構築に対する具体的な言及がないということである。現行の韓半島の休戦協定は平和協定に代替えされなければならない。平和協定は、南北間の不可侵協定を盛り込むべきである。しかし、文書ではこの問題についてふれていない。したがって、この問題に関しては南北からの公式な説明と合意がいるようである。

 二、平和協定が締結される場合、駐韓米軍の地位問題が論議される。すでに韓国社会の一角には、いわゆる進歩主義勢力を中心として平和協定の締結を見守りながら、駐韓米軍の縮小または撤退が要求されており、平和協定の締結後には駐韓米軍が完全に撤退するか、国連の平和維持軍に変わるべきであるという主張も提議されている。南北共同宣言はこの問題についてもふれていない。南北の首脳はこの問題についてどう考えているか、ある時点がくれば公式の立場を合意の形態で明らかにすることが望ましい。

 三、韓国の「国家連合制」と北朝鮮の「緩やかな段階の連邦制」の間に、どんな共通点があるのかについての討論がもっと具体的に展開されるべきである。私は両者の間に必ず共通する点があると確信しているが、韓国社会のいわゆる保守勢力が中心となって疑問を投げかけているからである。一歩進めて、究極においては統一国家の体制と理念はどのような内容であるべきか、当然討論の対象になってくるのである。


 5.南北共同宣言と国際社会

 南北首脳会談と南北共同宣言、その後、展開された新たな韓半島の状況は、国際社会から広範囲な支持を受けている。去る2000年9月9日、国連で開かれたミレニアム首脳会談で合同議長が支持声明を採択した事実が端的にそれを物語る。それだけではない。アメリカ、ロシア、中国、日本など韓半島の周辺4大国も同じ立場を見せた。冷戦構造の枠から脱皮し、軍事対決をさけて和解と協力の時代に転換している韓半島の状況は、世界的潮流に符号すると同時に、4大国の対外政策にも符合しているからである。
 新たな韓半島の状況と関連して注目される点は、北朝鮮のアメリカ及び日本との国交正常化の可能性である。すでに、アメリカ、ロシア、日本、中国など周辺4カ国と国交を結んでいる韓国は、ロシア及び中国だけと国交を結んでいる北朝鮮がアメリカ及び日本とも国交を樹立した方が、韓半島情勢の安定と平和に貢献できると確信している。南北関係がよくなればなるほど、その波及効果は朝・米関係と朝・日関係にもよい影響を及ぼすだろう。そして、朝・米と朝・日国交正常化が実現されれば、韓半島の状況は停戦協定から平和協定へとすみやかに動くだろう。
 この点と関連して注目されるのは、韓国政府が検討している「新4者会談」案である。南と北が平和協定に合意した後、アメリカと中国もその合意を保障する方式を実現できるよう会談を開こうというものである。北朝鮮の態度はまだ明らかになっていない。


 6.終わりに

 南北首脳会談を契機に醸成された韓半島の新たな状況は、確実に東アジア全体に肯定的な効果を及ぼしている。それは東アジア地域でも軍事対決の時代が終焉し、和解と協力の時代を定着させることができるという展望を可能にするものである。
 このような脈絡から、東アジア諸国は南北関係の劇的転換を続けて応援してほしい。しかし、何より重要なことは、南と北が南北共同宣言を誠実かつ段階的に実践に移していくことである。

(2000)


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