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1993 第九回 /服部緑地野外音楽堂 )

第9回ワンコリアフェスティバル開催に当たって
実行委員長 鄭甲寿

  ワンコリアフェスティバルは、去る1985年の第一回開催以来、毎年回を重ね、ここに第9回を迎えることができました。これまで、暖かいご理解、ご賛同をくださった方々、貴重なご協力、ご支援をくださった皆様に、ここに改めて厚く御礼申し上げます。当フェスティバルは、この9年間、一貫してワンコリアの実現を目指してまいりましたが、それは私達コリアの利益のみならず、アジアの平和と発展、ひいては世界への貢献を志向するものです。第二次世界大戦後の冷戦体制が崩れた現在、世界は21世紀につながる新しい秩序の形成に向けて進んでいます。 しかし、世界は一体いかなる方向へと進もうとしているのでしょうか?私達はかつて、今後世界が進む方向を表すキーワードとしてグローバル・リベラル・ヒューマニズムを指摘したことがありますが、それは言い変えれば現在の国家単位での秩序維持から、国境を超えた規模で市民的権利や人権が保証される世界秩序へと進んでいくであろう方向と言えるでしょう。EC統合や北米経済機構(NAFTA)のような統合の動きはもちろん、東欧や旧ソ連の変革もまた、世界が今後そうした方向に進むことの表れと考えられるでしょう。
  とくにEC統合は、人類の歴史的実験として注目されます。ECに関しては市場や通貨の統合の困難さ、ブロック化の懸念など、経済的側面のみが強調されがちですが、単なる経済的統合に留まらずに、地域内において「ヨーロッパ市民」の形成という理想を目指すものとしても、注目する必要があるでしょう。それは究極において世界市民という普遍的理想に通じるものであります。今後、長い紆余曲折と試行錯誤を繰り返すでしょうが、人類の望ましい姿に向かう可能性を示唆しているのではないでしょうか。
  北米経済機構もまた、市場統合が実現すれば、地域内において物・金・情報そしてなにより人の自由な往来が生じ、それによって、やはり地域内における市民的権利の普遍的実現の可能性を開くでしょう。この統合の動きは南米にも広がりつつあり、さらに最近では、アラブ、アフリカでもそれぞれ統合への模索がはじまっています。いずれもEC統合以上の困難や混乱を伴うかもしれませんが、大きな流れとして見るならば、世界はやはり統合の方向へと進んでいるのではないでしょうか。

  一方、翻って私達の属するアジアはどうでしょうか?私達はかねてよりアジア共同体(AC)を提唱していますが、それも単なる経済的統合ではなく、やはり「アジア市民」の創出という理想を目指す発想であります。すなわち、アジアにおける市民的権利と自由の普遍的実現を目指す発想であります。
  アジアは日本の経済力を中心として、世界で最も経済成長力の高い地域であります。そして現実最近のアジアでは統合に向けた様々な論議が浮上しています。日本では国境を超えた経済圏構想として「黄海経済圏」「環日本海経済圏」(環東海経済圏)等の構想が論じられるようになり、またマレーシアのマハティール首相が提案している「東アジア経済グループ」(EAEG)構想は大きな反響を呼び起こしてきました。さらに先日、アメリカのクリントン大統領がアジア・太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議開催を提案し、新太平洋共同体(PC)を提唱したことは、記憶に新しいところです。今後アジアをめぐる統合の論議はますます活発になり、具体的な動きも出てくるでしょう。もちろん、現状では領有権問題など統合を阻む複雑な問題が横たわっています。中でも東アジアでは、我が祖国の分断と対立が、常に同地域の平和と安定を脅かしています。しかし、そうした問題も統合に伴う相互補完的、互恵的関係の深まりによって解決がより容易になるものと思われます。相互信頼の深まりは、軍事的安全保障の比重を低下させ、より安定した平和をもたらすでしょう。このことが、さらに経済発展を可能にし、同時に地域内の市民的権利や自由もより保証されるようになることでしょう。

  ところで、アジアにおける統合を考える時、日本にもコリアにも乗り越えなければならないハードルがあります。日本の場合、アジア諸国との関係が問われるでしょう。日本は明治以来の『脱亜入欧』的なアジア観を克服することが求められています。つまり日本は近代史において自浄能力を発揮することによって、アジアから信頼され世界から尊敬される国家になりうるといえるでしょう。その意味で、新政権が基本政策の中で先の戦争の反省を明確に述べ、細川首相が「侵略戦争である」と明言したことは画期的なことだと思います。今後、戦後補償や歴史教育を通じて、さらに具体的な成果を示されることを期待したいと思います。
  一方、私達コリアは、分断状況を克服し、自己統治能力を実証しなければなりません。今日の複雑な国際情勢の中で、ワンコリアを実現するためには、北と南、在日と祖国、正義と利害、理想と現実など、様々な関係のバランスを考えなければならないでしょう。そのために私達は、とくに現実的でしたたかなバランス感覚の必要性を強調したいと思います。   当フェスティバルは在日コリアンこそまず一つになってワンコリアのシンボルとなり、南北間のバランスをとりつつ、祖国および海外同胞のパイプ役としてワンコリアの実現とアジアの平和に貢献しようという独自の発想を掲げてまいりました。幸い、祖国南北をはじめ立場や考え方、国籍や所属の違いを超えた画期的な参加と協力、賛同と支持を得てきましたが、こうした成果を大切にすると共に、さらに発展させるため、明確にアジアと世界を視野にいれ、私達のビジョンをよりグローバルなものにしていきたいと考えています。とりわけ祖国南北による「不可侵と交流、協力の合意書」と「非核化共同宣言」が出され、ワンコリアが今まで以上に現実のものとして近付きつつある今日、海外コリアンと祖国の関係、アジアの中のコリアのあり方ひいては世界の中のアジアのあり方が、ますます具体的に求められていると言えるでしょう。

  当フェスティバルは以上のようなビジョンを、文化を通じてイメージ化し、南北交流、国際交流を通じて象徴する場であります。今回も祖国と海外から、数多くのミュージシャン、アーティストが参加し、在日コリアンとともにハナ(ひとつ)となってワンコリアを、そしてアジアの平和を国際社会にアピールします。  ハナ!


 
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