( 1992 第八回 /大阪城野外音楽堂 )
第8回ワンコリアフェスティバル開催に当たって
実行委員長 鄭甲寿
ワンコリアフェスティバルは、去る1985年の第一回開催以来毎年回を重ね、ここに今年第8回を迎えました。当フェスティバルは、統一コリアを志向する独自の発想とビジョンを掲げて始められましたが、そのビジョンは、いまやようやく現実のものになろうとしています。そのビジョンとは、在日コリアンこそまず一つとなってワンコリアのシンボルとなり、南北間のバランスをとりつつ、南北間、海外コリアンのパイプ役としてワンコリアの実現に貢献しようというものであります。したがってそれは、在日コリアン独自の役割を海外コリアンとして積極的に担おうとするものであり、また従来のように、統一コリアを在日コリアンのバックグラウンド(援護基地)と考えるばかりでなく、在日を含む海外コリアンもまた、統一コリアに対してバックグラウンドとなりうる(すなわち相互にバックグラウンドの関係にある)と捉える全く新しい発想のビジョンであります。
当フェスティバルは、こうしたビジョンを文化を通してイメージ化し、シンボル化する場として開催されるものであり、そうした独自の方法で国際世論にワンコリアをアピールし、ワンコリアに向けた国際的な雰囲気の醸成に寄与しようとするものであります。
こうしたビジョンと発想に、幸い多くの賛同と支持が寄せられ、その輪は年々拡大してきました。毎年民団系、総連系の諸団体からもともに様々なご支援を頂いてきましたが、特に昨年は、初めて総連の朝鮮文学芸術家同盟大阪と民団の韓国青年会がともに出演し、ワンコリアを強くアピールすることができました。またこれまで祖国南北からも、韓国のサムルノリや四柱八字、共和国の金正規氏、海外からも在中朝鮮族の李承淑氏らがともに出演し、南北・海外コリアンのパイプ役としての一端を実際に担ってきました。今後、南北のパイプ役としての海外コリアンの役割は一層重要なものとなり、またコリアン同士の和解に向けた動きもさらに活発になるでありましょう。
当フェスティバルはまた、日本の各分野の第一線で活躍している在日コリアンに注目し、そうした方々に様々な協力を頂いてきました。彼らの存在はコリアに対して押し付けられたマイナーなイメージをプラスに転換する上で大きな効果をもたらすからです。そうした協力の一つとして、三年前当フェスティバルのテーマソングとして康珍化氏に作詞して頂いた「ハナの想い」があります。同曲は、昨年吉屋潤先生の作曲を頂いて、本名で再デビューした朴珠里によって歌われることになり、そのCD・カセットが本年三月に韓国と日本で同時に発売されました。当フェスティバルから巣立った朴珠里を、皆さんとともに彼女がスターとなれるよう応援していきたいと思っています。こうした試みが成功するならば、コリアンとして各分野にチャレンジする後輩達が次々と続き、在日コリアンの地位を自ら押し上げることになるからです。今後も当フェスティバルは、様々な分野におけるこうした人材の輩出に寄与していきたいと考えています。
一方、第一回開催の1985年は、周知のように、旧ソ連のゴルバチョフ大統領がペレストロイカを掲げて立場した年であり、まさに、世界が戦後冷戦体制の転換に何けて大きく動き出した年でありました。そして今日世界は、冷戦体制の終結、ドイツ統一、EC統合の一層の深化、ソ連邦解体と劇的な変革期にあります。それとともに祖国南北を取り囲む状況も著しく変化し、一昨年には韓国と旧ソ連が国交を樹立し、共和国と日本も国交正常化交渉を開始しました。ついで昨年は南北がともに国連に加盟。さらに先日、韓国と中国が国交を樹立するに至りました。今後の共和国と日本・米国との国交正常化交渉が注目されます。
こうした世界の激変に対応して、南北の対話と交流も画期的な進展を見せてきました。昨年の世界卓球選手権における南北統一チーム「コリア」による参加、南北の「不可侵と交流・協力」の合意、非核化共同宣言と南北関係も新たな局面を迎えています。いずれ南北首脳会談も開かれるでしょう。もし、首脳会談が実現すれば20世紀中にも連邦、国家連合、国家共同体のいずれか、あるいはそれらの混合した形態の統一国家樹立もありえるでしょう。いずれにせよワンコリアはいよいよ現実のものになりつつあります。私達もまた、画期的な南北の「不可侵と交流、協力の合意書」と「非核化共同宣言」を支持するとともに、その実行を見守るものであります。
ところで、昨年のパンフレットの挨拶文において、経済的には南北合弁が近く実現するであろうことを指摘していましたが、早くも、先日韓国の大宇グループが共和国との間に合弁第一号を実現し、また共和国の副首相が韓国を訪問して南北の経済協力をアピールしました。今後、南北の経済協力合弁事業も一層進展するでありましょう。
現在世界は、統合と解体、求心力と遠心力が混在し、混沌とした様相を呈しているように見えます。がしかし、そうした過程を通して新たな求心力のもとに統合される方向に、たとえば、東欧がECに、旧ソ連のイスラム圏がトルコ・イランを中心とする黒海経済圏に、といった形で収赦してゆくものと思われます。
当フェスティバルもそうした世界の流れを見極めながら、かねてから、アジア経済圏、さらにはアジア共同体(AC)を展望してきましたが、これも「環東海経済圏」(「環日本海経済圏」)構想や、「黄海経済圏」構想、あるいは「アジア経済グループ」構想など、現実的な構想として論議されるようになってきました。とくに最近そうした経済圏に関連した具体的な計画として、共和国の豆満江流域開発がクローズアップされていますが、この計画は国連開発事業として祖国南北、日本、中国、ロシア、モンゴルが加わる国際的プロジェクトであり、今後その推移が注目されます。
しかし、こうした構想にとっても、南北の分断状況は、依然としてアジアの紛争地域として不安定要素を残す好ましくないものであり、その解決が急がれるのであります。すなわちワンコリアは、アジア全体の平和と発展にとっても必要なのであります。以上のようなビジョンと展望のもと、本年も祖国南北と海外からアーティスト、ミュージシャンを招き、在日コリアンと共に一つとなってワンコリアを国際社会にアピールします。
ハナ!
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