(1990)

     
 

祝 辞
在日同胞は「ハナ」になりましょう

南北商事株式会社
社長 南 相吉

 今、われわれは民族史における最も重要な転換期を迎えています。祖国がふたつに分れ、イディオロギーの壁に阻まれて、事ある毎にお互いを貶し、敵対視しながら半世紀近い歳月を虚ろに過ごしてきました。このような名分のたたない分断対峠がどれだけわが民族全体のエネルギーを消盡させ、発展を阻害してきたことでありましょう。
強大国らの利害にからむ副産物として生じた、国境ならぬ国境、軍事分界線を間にはさみ、無意味な我執に明け暮れてきたのです。

 幸い、世界の激変とともに、われわれも今までのような無益な対立が南北どちらにとってもマイナスになると悟ることになり、同族として、お互いが憎しみ合う現状に終止符を打とうとする動きが芽生え始めているのです。とくに、われわれ在日同胞にとっては、凝固した民族的偏見ばかりに捉われ過ぎ、同じ環境で住みながら、全然別の世界に住む人を見るような固定観念に一貫してきたことは誰も否認できない事実であったのです。自己主張にばかりこだわり、団結と和合に向けての努力を怠ってきたといえます。われわれは所詮、同じ血を分ち合った同族なのです。文字も言葉も思考も 同じ流れを汲む、それこそ、「ハン民族」であることに違いないのです。複雑多端な国際社会のなかで、他人ならぬ同族の一員としての合意点を探し求めていかなければいけないのです。

 統一は誰の手をも借りず、われわれ自身の努力と叡智で成し遂げられるのです。同じ父母から生れた兄弟でも性格が異なり、力の差はあるのです。同じ民族であるわれわれが兄弟のようにいましめ合い、いたわり合うことによって一家安定は保てるものです。

 今の南北関係はイデイオロギー論争よりも経済共同体として、市場経済への提携が緊要であります。われわれは最近、東西ドイツの経済統一を見守ってきました。南北の統一より、もっと難かしいと思われていた東西ドイツの統一過程が、ベルリンの壁崩壊と同時に、かくも早く訪れるとは誰一人予想できなかったことです。彼らにできる事がどうしてわれらにはできないと言えるでしょうか。韓民族がゲルマン民族より劣るとは絶対に思われないのです。

 われわれ在日同胞から先ずひとつになりましょう。いま、ヨーロッパ大陸では国境線がなくなりつつあるのです。政治的、外交的な緊張緩和への努力は南北両側の政治人にまかせ、分断の痛みを最も身に泌みて味わってきた在日同胞だけでも先ずひとつになる契機づくりに能動的になるべきではないでしょうか。

 このような視角から、このたび行なわれる「ワン・コリア」のイベントが、史上初めての南北文化人の集いとして「ハナ」になれる原動力を培い、民族統一の媒体としての礎石的役割を果してくれることを心から願って止まない次第であります。

 
     

 

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