黒 田 福 美
(くろだ・ふくみ)
女優。
韓国とのかかわりが深く、著書も多い。主な著書に『ソウル・マイ・ハート』(草風館)、『ソウルの達人』(こーりん社)、『ソウルの達人完全版』(三五館)などがある。ドラマ、映画に多数出演。
韓国や在日コリアンとの縁が深い黒田福美さんは、ワンコリアフェスティバルも応援してくださっており、会場に足を運ぶことも多い。その黒田さんが、阪神大震災後、神戸・長田地区の商店街復興のために始動させたのが、通販システム「がんばってますKOBE」だ。あれから2年、復興の現実は決して甘くない。むしろ、これからが正念場なのだと、黒田さんは熱く訴える。
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韓国のことをやっていなければ、ここまで辿り着かなかった―なぜ阪神大震災後の神戸復興にかかわることになったのか。元をただせば、韓国、そして在日コリアンとの出会いに行き着きます。
韓国と関わって約15年になりますが、その流れの中で、『ソウルの達人』という本を出すことになりました。その時、同行してくださったカメラマンが、崔健三さんです。崔さんとはそれまで一度しかお目にかかったことだありませんでしたが、この本の企画が通った時、ぜひ崔さんにお願いしようと思いました。言葉ができなければ精度の高い映像が撮れないと実感していたからです。ところが返ってきた返事は、「僕は朝鮮籍ですから。」韓国には墓参のために、一度だけ行くことができる。その切り札を切るのか、国籍を変えるのか、この仕事を引き受けないのか。それは崔さんの問題です。
しばらくして崔さんから、国籍を変えるという電話が入りました。アボジに相談した所、意外なことに「そんな話があるなら、変えればいいやんか」と言われたとか。自分は朝鮮籍として生を受けたからには、それをまっとうして、その結果を見届けたい。以前そう話していらしたので、その決断にはちょっとびっくりしました。
初めて行く故郷で30日間もロケを敢行するのは大変なことだったと思います。でもおかげで本は出来上がり、万感の思いを分かち合うことができました。そして本も出版されて少し落ち着いた頃、崔さんが「福美さん、写真展をやってみたら?」と言ってくださったんです。私はそれまで自分の資料として写真を撮っていただけですから、「そんな、無理よ」と答えました。「福美さんの写真には、韓国を愛してる気持ちが溢れていますよ。だから十分面白い写真展ができると思う」とおっしゃる。
結果的に95年の2月に、銀座のマリオンで写真展をやることが決まりました。私としては、韓国の写真展をやるならぜひ関西でもと思っていたので、なんとしてもこれを成功させ関西に続けたかった。その準備を進めている中で、阪神大震災が起きたのです。
でも正直言って震災が起きてから何ヶ月かは、神戸は私にとって単なる「被災地」でしかありませんでした。救済支援をしたわけでもないし、義援金も不透明な部分があるような気がしたので送らない。東京で暮らす多くの人と同じ様、震災は遠く離れた土地の出来事でした。もちろん、気にはなっていましたが…。
ところが写真展を終えてしばらくしてから、これなら持っていけるかもしれないと思い始めたのです。10月に大阪で写真展が決まっていたので、そのまま神戸に行こう。写真展にかかる費用は多少は企業に協賛していただきましたが、基本的に自費ですから、予算が潤沢にあるわけではありません。ですから公共の場所を借りよう。そう思って探していたら、長田に足を運び始めるようになりました。
何度か長田に通ううちに、震災後数ヶ月たって、みんな文化的なことに飢えている、という声が聞こえてきました。それだったら、もう少し手を広げてみよう。そんなわけで写真教室を開いて、皆さんの手で撮ってもらった写真をすぐに展示し、「さっき見てきた神戸展」という写真展をやってみたり、イラストレーターの田中靖夫さんにお願いして、子どもを対象に、素朴な道具でできるTシャツのプリント教室を開いたり。白龍さんや新井英一さん、私が親しくしている韓国の有名なフォーク歌手・趙東振さんを呼んで、野外コンサートも開きました。
長田は神戸でもっとも在日コリアンの割合が多い地域です。私が船頭になったイベントも、大勢の在日コリアンの方たちが支えてくれました。「FMわいわい」の金美玉さんも全面的に協力してくださったし、イベントの事務局も、写真パネルの飾りつけもコンサートの受け付けや段取りも、三民会という在日のグループの人たちが手伝ってくださった。自分がボランティアしていただいた次第です。そうやって交流が深まるうちに、「被災地」という漢字3文字でしか感じられなかった土地が、自分の友人が大勢住んでいる土地になっていったのです。
―みんなが少しずつ優しくなれるシステム ―
そんな活動をするうちに、被災地の皆さんに撮っていただいた写真が『アプローチ』という一冊の写真集にまとまりました。震災の翌年の6月のことです。おかげさまでその本はかなり評判になりましたが、本が出来上がった時、「これで終わっていいのかな」という気持ちが芽生えてきました。
現地に足繁く通ううちに、見えてきたこともたくさんありました。たとえば瓦礫は撤去され、高速道路や地下鉄などハードの面ではどんどん復興していくのに、地元の人たちの経済活動が全く活性化されていない。いくら元の場所にお店を再建しても、住民が帰ってこないので、商売が立ち行かない。目で見た限りは、お店が並び始めているので復興が進んでいるように見えますが、現実はそんな甘いものではない。むしろ問題は見えにくくなっている…。
そうした現実を知るにつけ、何か自分にできることはないかと思うようになりました。離れた所に住んでいる人間が、居ながらにして神戸を支援するにはどうしたらいいか。そんなことを考えているうちにふっと思いついたのが、通信販売で物を買うシステムです。考えてみれば私は以前からお歳暮の時期になると、神戸のお肉屋さんに頼んで神戸ビーフを送る、なんてことをやっていたわけです。日本人は、やれお中元・お歳暮だ、入学祝い、香典返しだと、しょっちゅう人に物を贈ります。それもたいてい、デパートあたりから送るわけです。だったら商店街の通販カタログを作って、そこから選んで送ってもらうようにしたらどうか。
義援金は、ある意味でお恵みです。でもこの方法なら、皆さんの仕事を助けることで、復興を応援することができる。商店の人たちも堂々と胸を張って、「商売上の利益」を得ることができます。
また注文する方も、大手デパートを儲けさせるより、「自分も少しいいことができた」という充実感を得ることができます。大震災の時、自分には何もできないと内心忸怩たる思いだった人も、これなら無理なく参加できます。贈り物にカタログを添付することで、いま神戸はこういうことになっているんだという情報も送ることができるし、受け取った方も「この人はこういうことに意識を持っているんだ」と思うだろう。そして受け取った方がまたそのカタログを利用して、次に注文してくれるかもしれない。これは誰も大きな負担を背負うことなく、誰もがちょっとずつ優しくなれるシステムではないか…。
阪神大震災で被害を受けた商店はたくさんありますが、身の丈に合ったことしかできませんから、とりあえず自分が縁のあった長田商店街でこのシステムを立ち上げてみようと思いました。こうして生まれたのが、「がんばってますKOBE」です。スタートしたのは96年のお歳暮。始動して今年で2年になります。
多くの人にとっては、阪神大震災は過去の出来事かもしれません。マスコミも、ほとんど震災報道をしません。でも実はこれからが、もっと大変なんです。お店を再建するために、皆さん借金をしています。特例として返済の猶予が認められましたが、いよいよ返済をしなければならない年度になってきた。しかもこの不況です。二重の打撃を受け、生活が立ち行かなくなる人も出てくるかもしれません。だから今こそ、何かやらなくてはいけない。これからが大事なんだと思います。
私も「がんばってますKOBE」をふるさと宅急便に入れてほしいと郵政省にかけあっている最中ですが、国は目に見える建物などにはお金を出しますが、ソフト面にはなかなかお金を出してくれません。それなら通産省で何かできないかと提案してみたところ、「今、被災地ということを前面に掲げて、みんなが振り向くでしょうか」という。私は、国がそういうことを立ち上げたらマスコミも動くと言っているんですが…。
でも嬉しいニュースもたくさんあります。このシステムに参加してくださった方と商店街の人たちの間で交流が始まっているんです。神戸の人たちだけはなく、注文した方たちもまた、元気をもらっている。がんばって!のエールが行き来しているといった感じです。
私もいろいろなご縁が重なって、ここまで来ました。ワンコリアに参加なさっている皆様も、ぜひこれをご縁と思って、復興に想いをかける商店街の人達にエールを送っていただければと思います。
(1998)
「がんばってますKOBE」問い合わせ先
兵庫県神戸市長田区長田町1-3-1-224号
長田神社前商店街振興組合
Tel.078-691-2914/Fax.078-691-2005
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