料理から世界が見える

二大鉄人が語る、料理、そして人間。

対談 道場六三郎氏 VS 周富徳氏

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「人間は、ひとつのものが分かれて枝になった。違いを許す寛容な心が大切。」

道場六三郎
(みちば・ろくさぶろう)
1931年石川県生まれ。1950年に上京し銀座「くろかべ」を皮切りに、東京芝浦「ぼたん」、赤坂「常磐屋」などを経て1971年銀座に「ろくさん亭」を開店。1994年6月赤坂に「ブラッセリー六三郎」をオープン。銀座「ろくさん亭」とともに連日食通の舌をうならせつづけている。

周富徳
(しゅう・とみとく)
1943年横浜生まれ。18歳から料理の道に入り、以来30年、中国料理一筋に腕を磨く。また世界各地を食べ歩きその他の味をヒントに新しい中国料理を創造する、広東料理の第一人者。95年に、念願の自分の店「富徳」をオープン。総料理長を勤めている。

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「料理には国境がないけど無国籍料理もだめ」

 在日中国人二世の周富徳氏、日本人の道場六三郎氏。当代随一といわれる、ふたりの料理人の共通点は、基本を守りつつも常に新しいものを取り入れ続ける創造力の豊かさかもしれない。
 そんなおふたりが、料理哲学、コリアの料理との出会い、そして世界観を、2時間にわたって熱く語ってくださった。
 道を極めた一流の人間ならではの哲学は、刺激的で奥が深い。また「ひとつの中国」という未来を願っている周氏の心の底に触れることができたのも、印象深かった。(司会・構成:梁裕子)


先日、おふたりはキムチコンテストというのに出られたそうですね。若い人たちがキムチをつくるのを見たり、料理をおつくりになったと聞きましたが。

各チームの青年たちが自分たちなりにいろいろとつくってたね。

道場 キムチのー番のポイントはあの「ヤンニョム」だね。バラエティ豊富だった。リンゴをすりおろしてそれに甘酒を入れたり・・・塩辛はほとんどみんなが入れるよね。それから甘みを補充するのにハチミツを入れたり、オレンジの果汁を使ったり。要するにフルーティーな感じのヤンニョムができる。そのあたり、自分で創造するっていうのが非常に大事なわけね。

おふくろの味をうまく利用して、自分の味でアレンジしてんのね。韓国ではキムチが漬けられないとー人前じゃないんでしょ?

 ええ、キムチが本当に料理の基本なんですよね。

道端でやってるもんね。

wpe9.jpg (8309 バイト) そうなんですよね。それでキムチの味をみれば、そこのお嫁さんとかお母さんの料理の腕がわかっちゃう。

キムチっておいしいのとまずいのとはっきりしてるね。

まずいのとは?

道場 やっぱり古くなりすぎたやつね。

ああ、それはダメだね。

道場 ぼくはやっぱり、まずちゃんと冷えてるのがいいね。まあ、漬けてー週間くらいのがー番おいしいんじゃない?

季節にもよりますね。

古漬けにしちやダメってことだな。

道場 古くなりすぎて酸化してるようなのがあるでしょう。あれはもう調味料にした方がいいよね。

妙めたりね。でもキムチっていろいろ利用できるね。

そうですね。実際に何かつくってらっしゃいますか?

ぼくは家で雑炊つくるときにー緒に入れたり、おそばのときも入れたり自分で工夫してるよ。今朝も食べてきたよ、そうめんと一緒に。作れる、キムチ?

ええ。でもわたしなんか素人なので味にムラがあるんですよね。同じように漬けても、今回のはちょっとイマイチだなあと思うときがあって。

道場 要するに発酵の加減ですよ。漬けものっていうのは全部発酵のうまさ。だからちょっと古くなったのは料理に使う。うどんの煮込みでもキムチをたたいたの放り込んで、あつあつのをふーふーいうのもうまいだろうしね。

周さんはキムチが結構お好きで、お家でもよく召し上がるとか。

食べてるよ。今はスーパーでもいろいろなのが売ってるしね。よく買ってくるよ。買って冷蔵庫に入れておけば、ちょっとおかずのほしいときなんか便利よ。大体いつも入っているね。

道場 昔ね、キムチが日本に来たころは、もう辛くって。それを水で洗って食べてる人がいたけど、近頃はずいぶんと馴染んだね。ゴルフ場にも全部置いてあるしね。

そう、昔は焼き肉屋行くとさ、お水が一緒に出てきたんだよ。ゆすぐんだよ、キムチを(笑)。もうそういうことないね。

そうですね。何しろキムチが朝鮮語だっていうことがあまり知られていないですよね。日本語だと思っている人がずいぶんいるみたい。ところで、おふたりの今朝のお食事はどんなものでしたか。

ぼくはね、稲庭うどんボイルして、スープを自分でとって、ネギとかいろんな薬味を入れてキムチを一緒に食べたの。

おつゆは日本の?

うん。煮干と昆布。

それはご自分でおつくりになったんですか。

そう、いつも自分でつくるよ。家では朝しか食べないけど、六時に起きて犬の散歩に一時間半くらい行って、帰ってきてもまだみんな寝てるからね。お腹空くし自分でつくっちゃった。

道場 年寄りだから朝早くてね。

そうそう(笑)。

道場さんはどういうお食事を?

道場 ざる豆腐っていう固いやつがあるんだけど、女房とふたりだし、たくさんもらってもいつまでも置いておけないでしょ。だからー旦焼いてから冷蔵庫にしまっておくんだけど、それを出してきてもうー回焼き直して、しょうがおるしてネギ刻んで醤油をかけて。それから「時鮭」。友だちが送ってくれたんですよ。これも切って焼いてね、パーシャルに入れておいた。

きのう冷蔵庫掃除してたら、冷凍庫から鮭がいっぱい出てきた。

道場 冷蔵庫にハンパものが結構たまるね。ぼくなんか冷蔵庫の掃除係だよ(笑)。

その辺は主婦感覚に似てますね。

われわれの年代の料理人だと大体無駄をしないよ。若い人なんかすぐに捨てちゃうんじゃない?

道場 そうそう。大根のしっぼとか葉っぱとかね。ネギでもババッと切って……

今度、中華料理屋で見てごらん。ネギの青い部分、入ってないから。あれは悪い習慣覚えちゃったね。

道場 もったいないよね。本当は青いとこはうまいのよ。

何しろ中華料理も和食もそうだけど、ネギがないとダメだよ。脇役だけど大事だよ。

コリアの料理にもネギのお好み焼きがありますよ。パジョンとか。にんにく、しょうが、ネギっていうのは本当に脇役ですけど、実は主役にもなりうる。

 

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