今年も祈りの気持ちで鼓を打つ
大 倉 正 之 助
(おおくら・しょうのすけ) 1955年生まれ。15世・宗家大倉長十郎の長男。太鼓奏者として能舞台で演奏する以外に、1990年ベルリンの壁崩壊後の大イベント「セイクレッドラン東西文化交流」に参加するなど、世界規模で活動中。多ジャンルの音楽とのセッションも積極的に行っている。また、ネイティブ・アメリカン支援コンサートを企画するなど、行動する能楽師として、注目されている。 |
初めてワンコリアフェスティバルに参加したのは4年前、東京の第一回目だった。出演したのは、朝鮮半島の問題は決して他人事ではないと思ったからだ。例えば静岡あたりを境に日本が二つにわかれ、行き来することも出来ない状況を考えてほしい。それがどんな悲劇であるか。自分の身に置き換えるとよく分かる。
それに朝鮮半島におきた分断の悲劇が、日本で起きる可能性がまったくなかったかと言うと、そうは言い切れないと思う。朝鮮半島も日本も、同じ東アジアの民。古代から日本は、朝鮮半島の影響を強く受け、多くのことを朝鮮の人々から学び、文化を築いてきた。渡来人たちの血も、われわれに混じっているはずだ。そのせいか韓国の田舎の風景を見ると、なんともいえない懐かしさを感じる。自分の奥底に眠る原風景への思いが目覚める感じがする。
それなのに今日、朝鮮半島や中国など近隣の国々と日本は、経済や政治上でのつながりはあっても、本当の意味での交流はあまりない。英語は勉強しても、隣国の言葉を学ぶ人はまだ少数派だ。かく言う僕も、淋しいことに、中国語も韓国語も喋ることができない。
でも言葉が通じなくても、何かで通じ合うことができるはずだし、理解しあえるはずだ。それが僕にとって、音楽とバイクだった。
そんなわけで一昨年は、中国や韓国をはじめ海外ライダーたちと、戦後50年を見つめる鎮魂の旅「グローバルライダーズ・ミーティング」を実行した。戦争という過去をきちんと見つめた上で、アジアのライダー達との魂の交流をしたかったのだ。僕らはひとつの旅を共にしながら、地球というひとつの命を共有しているという実感を深めていった。
そうした実感をさらに深めるのが芸能である。僕は韓国の金大煥氏と中国の孟暁亮氏という素晴らしいパーカッショニストと、「飛天 パーカッション」というグループを作っている。僕らは違うビートを体内に持っているが、それがひとつになり、炸裂し、豊かで力強い世界が生まれる。また音楽は、新しい出会いをもたらしてくれる。たとえばワンコリアフェスティバルで出会った朴保氏とはネイティブ・アメリカンの運動を支援するコンサートや、反核のコンサートなどさまざまな機会でお互い協力し合うようになった。
天から見下ろせば、地球はひとつ。そんな思いを込めて、僕は自分の活動の拠点を「飛天」と名づけている。ワンコリアフェスティバルに参加しているのも、その思いからだ。鼓を打つとは、祈ることである。今年も僕は、一日も早く朝鮮半島の分断状況がなくなるよう、また地球上に国境という枠がなくなり、人々が豊かに暮らせる時代がくるよう祈りを込めて鼓を打つつもりだ。
(1997)
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