国と国との政治ではなく
「人と人との政治」を考えたとき、
国境はいらない。
中山千夏
この春、いきなりの依頼にも関わらず、ワンコリアフェスティバル・プロモーションビデオのナレーションを快く引き受けてくれた中山干夏氏。著作活動のかたわら、数々の市民運動を続けている。
これまで在日コリアングル―プの運動に参加した経験も少なくない。
南北どちらかに片寄るのではなく、両方が一緒になってイベントを作っていくワンコリアフェスティバルは、「在日日本人」として、参加しやすいと語る。
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実は、わたし、今年に入るまで、ワンコリアフェスティバルのこと知らなかったんです。ある日突然、鄭さんから「プロモーションビデオのナレーションをお願いしたい」って、電話があったんですよ。それで去年のパンフレットやビデオを送ってきて。「ハナー!ハナー!」って叫んでるおじさんがいるな、と思ってたら、それが鄭さんだったんですよね(笑)。パンフレットをみると、趣旨がボランティアだという、わりには立派だし、なんだかあやしいな、と思ったんですけど(笑)。賛同人に知り合いが多かったし、今まで知らなかったというのも不思議だなという気持ちもあって、お手伝いしようと。だから最初は調子がわかりませんでしたね。ナレーション用に送られてきた原稿が、「われわれコリアンは!」って感じでとても堅かったの。もちろんわたしは俳優だったし、別にコリアンになって原稿読んでもいいんですけどね(笑)、なんだかニュアンスが違っちゃうでしょ。」原稿を手直ししたいと思ったけれど、あちらにものすごくしっかりした考えがあって「これでやるんだ!」という感じだったらまずいなと思って、ちょっと連絡してみたんです。そしたら「いやもう、お好きなように直してください」「ちょっと書いといただけなんですから」って(笑)。なんなんだ。そういうゆるい組織なんだと思って急に気楽になって。だから、趣旨だけは入れて、事実関係が違わないようにして、あとは全部直させてもらったの。
いわゆる国と国の政治を超えた、人と人の政治という意味において、わたしは国境というものが、全部なくなったほうがいいと思っているんです。ベルリンの璧はなくなったけれど、朝鮮半島の壁は、明らかに不自然に作られたものであるにも関わらず残っている。国と国との政治ではない方向で、一般の人たちの政治問題として、南北が一緒になったほうがいいという立場を、わたしは守っているんですよ。その立場で手伝えることがあれば、いつでもしようというのがこれまでの姿勢なんです。今までも、いろんな在日コリアンのグループからの要請を受けて手伝ってきましたからね。 だけど、いつも戸惑うのは、いくら国と国との政治問題ではないといったって、国と国ができているために問題が起こっているわけだから、絡んでくるんですよ。いろんなことで協力するときに、その人たちがどっちの国の人たちなのか、どうしても関係が出てきて、どうしていいかわからなくなることは、よくある。その点、ワンコリアは協力しやすいかたちだったんですよ。わたしたち「在日日本人」にとって。南北どちらの立場でもないし、総連系・民団系両方の銀行が広告を出したりしてますしね。
朝鮮人学校の制服を切る事件を糾弾する声明を、韓国の作家たちや映画人たちのグループが、韓国政府と日本政府に出したんですよ。ところがそれを、日本の報道がなかなか伝えないわけね。わたしは4年前に発足した「中心21」というグループに参加してて、これまでもいくつかのシンポジウムをやってきてるんだけど、以前彼らを招いてシンポジウムを開いたこともあったんです。その関係もあって、彼らから、中心21の代表の小田実さんのところに、こういう声明をもっと広めたいんだが、というFAXが届いたの。それで小田実さんとわたしたち10人位が集まって、300人以上の署名を持って、土井たか子さんと五十嵐官房長官のところへ申し入れに行ったんです。このことは、新聞にも載りましたよ。この場合、韓国の人たちとわたしたちが、「生徒たちが迫害を受けていることに対して抗議する」という形で連帯しているわけでしょ。これは、市民運動的な意味もあるし、いいわけよね。
在日コリアンというのは、実際に朝鮮半島に住んでいる同胞とは、ちょっと違う立場なわけでしょ。そこから「ふたつのコリアがあるのはおかしい、ひとつにしていこう」という提言をするのは、意味があると思うのね、すごく。北なり南なり、朝鮮半島の国内でやる運動とはまた、違った角度の違った意味があると思うんですよ。 こういうイベントを続けられる、ということは、こういうことが言える世の中なわけでしょ。こういうことをやってる、ということが、一番大事なんじゃない?もっと直截的にワンコリアを実現するためには、もっと具体的な活動が必要だと思うんですよ。だけど、そういう活動の活性剤っていうのかな、ほかの活動を元気づけていくようなことって大切だと思うし。 ところで、ワンコリアのパンフレットってよく見てると楽しいですよね。日本で、日本人として市民運動をやるとするでしょ。そこで、パンフレット作るからお金出してもらおうとするとね、右か左かどっちかに決まっちゃうのよ。こんなふうに左右入り乱れて料理店は出る、銀行は出る…これ、すごくいいね(笑)。こんなおもしろい宣伝ページのあるパンフレットなんて、日本人だけの市民運動じゃ作れないもの。うらやましいな。こういうところが、ワンコリアのおもしろさかもしれないですね。 (1994)
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