鄭 甲 寿 の 無 私 と 度 量
今年から東京でも行われることになったワンコリアフェスティパルだが、賛同者・協力者はもともと東京にも数多かった。
作家の小林恭二氏もその一人。鄭甲寿実行委員長の飲み友達にして、温泉仲間。鄭実行委員長は上京するたびに連絡して交友を深め、小林氏の人脈によって、酒場で、温泉で、さまざまな人と出会っていった−そんな小林氏に、鄭実行委員長の友人の視点から、ワンコリアフェスティパルの魅力について語ってもらった。
私にとって、ワンコリアフェスティバルは、実行委員長の鄭甲寿さんそのものですね。鄭さんと知り合ったきっかけ?5年前にいきなり電話がかかってきて、ボクの仕事場にきたんですよ。初対面では、とにかくびっくりしましたね。ワンコリアの何たるかもわかりませんでしたから、髭面で人懐っこい民芸酒場の主人という雰囲気の、怪しい人物が突然やってきたという。
●自然体の魅力、
●ワンコリアフェスティバル
そのとき、お昼にきて夕方まで4時間、熱弁していかれたんですね。基本的には、朝鮮半島に関しては政治情勢とか、私としてはよくわからないとしか言いようがないんですよ、複雑で。でも、鄭さんは異様に熱意があるし、最初から北でも南でもないと明一言しているし、風体は怪しいけれど話は面白いし(笑い)、人間的には信じられましたから。それで、いつのまにか第5回ワンコリアフェスティバルの賛同人ということになっていたんです。
ただ、鄭さんのワンコリアの思想・理想はその4時間でわかったんだと思います。もう彼とは5年付き合ってますが、それ以外のものはでてこないですから。それはもちろん悪い意味でなく、後から妙なものがでてこないということ。こちらの思惑を超えたところへ、相手の理想が変質してしまうことがありますからね。変わることは、支持者、賛同者に対する裏切りになる場合があるでしょう。そういうことをしないのが、相手に対する信頼感につながっていきますし。逆に言えば、変える必要がないほど、完成されたコンセプトを最初から持っていたんでしょうね。
それから、鄭さんが東京に来るたびに連絡をもらって、飲んでたんです。時には私の家に泊まったりして。でも、ぐっと親しくなったのは、翌年の90年の11月に旅行雑誌『るるぶ』で私が連載していた「温泉日記」という連載(単行本『酒乱日記』所収)でゲストにきてもらってからでしょうね。
この連載は、ゲストの友人と温泉に行って、ただただ飲んで騒ぐというものだったんですが、関係ない編集者も遊びにきたりして、なんだかみんな仲よくなっていったんです。連載が終わったいまでも、年に何回も集まって飲んだり、温泉に行くんですよね。そういう付き合いの中でどんどん親しくなっていってね。2年前、92年の第8回ワンコリアフェスティバルを見に行ったのも、「温泉日記」の仲間でした。印象ですか?まず、来ている人が幅広い。若い世代から年寄りまで、文字通り老若男女。みんな楽しんでいる感じがありましたし、密度も濃かった。鄭さんのいつも言っていることの等身大のイベントだと思いました。"粉飾した偉そうなものにしよう"とはしていない、自然体でした。
でも、すごい熱気があったから、鄭さんという人間とすごくシンクロする部分を強く感じました。
●ごく自然な対話と
●出会いの雰囲気のある"場"
ただし、生み育てたものの、わりに、鄭さんがあまりステージにでてこないなあと思いましたが(笑い)。あのくらいがちょうどいいんでしょうね。
イベントとしては彼にカリスマ性があったほうが盛り上がるでしょうが、ワンコリアにカリスマ性なんて必要ないでしょうから。そもそも彼は自分のためにやっている、わけではない。カリスマ的な、ある種ウサン臭い迫力によって統制し、自分が安全なところにいて兵隊に死ねというんじゃないですからね。自分というものを投げ捨てて取り組んでるからこそ、多くの人が協力しようという気持ちになるんですよね。あれで自分の利益のためにやってたら「偉大なる詐欺師」でしょう(笑い)。しかし、友人ながら鄭さんは無私で度量があるという、矛盾する要素をあわせもった希有な人物だと思いますからね。
これからのワンコリアに望むこと?鄭さんの思う通りに、このままやっていけばいいのだと思います。「ワンコリアはごく自然な対話の雰囲気がある"場"という狙いでね。政治的なことには意識的にストップをかけ、彼の作り出した"場"で南と北の人が出会って語り合い、ある種トゲトゲしい雰囲気を解消していくという。対話の内容まで言いだすと思惑がでてきますから、とにかくむずかしいことを抜きにして自由に話せる雰囲気を作ろうという― 彼の現在の必要十分な狙いは正しいし、成功しているとも思います。
でも、何といっても印象深いのは、私のエージェントであるYくんが、現在の恋人と2年前のワンコリアフェスティバルの打ち上げで知り合ったこと。
私も一緒に行ったのに、彼だけ美人と知り合ったことにちょっと嫉妬しています(笑い)。そういうふうに人と人が自然に知り合えることこそ、ワンコリア的な、いいところだとは思いますが……。
(1994)
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小林恭二(こばやし・きょうじ)
1957年兵庫県生まれ。作家。84年『電話男』で海燕新人賞を受賞して文壇デビュー。ポスト・モダン文学の旗手として注目された。主な著書に『小説伝・純愛伝』『ゼウスガーデン衰亡史』『半島記・群島記』『短編小説』『瓶の中の旅愁』『俳句という遊び』『酒乱日記』など。1998年、『カブキの日』で第11回三島由紀夫賞を受賞。第5回ワンコリアフェスティバルから賛同人をつとめ、エッセイをパンフレットに寄稿するとともに、数多くの友人・知人を鄭実行委員長に紹介して賛同の輪を広げる。東京におけるワンコリアの中核的存在である。
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