菅洋志


僕は葉山君とゆう少年に、博多で出逢った。 出逢ったとゆうより、偶然、小学校五年生の時の級がえで、同じ組になった。 つまり葉山君と僕は同級生だった。

二人は急に仲良くなり、よく遊んだ。夕方暗くなるまで遊んで、親に何回もおこられた。
「この水飲みきいや」といって、水たまりの水を飲み。 「路にねきいや」といって、二人で道路にあおむけに寝て、度胸だめしをした。

「この木登りきいや」といって大きなイチヂクの木に登り、ターザンごっこをしていたら、二人の重みで枝が折れ、一緒に地面にころがり落ちた。
六年になった春、中学生の不良グループとにらみ合いの末、けんかになった。 僕にとって初めての大たちまわり。けっこう真剣で必死だった。 葉山君は、僕をかばいながら戦った。 僕のランニングシャツはやぶけたが無キズ。葉山君は、鼻血を出していた。 僕が葉山君に勝てるのは、背が高いことと、時々試験の答案用紙をこっそり見せたことぐらいだ。 それでも楽しい毎日だった。

お盆が過ぎた夕方、ひょっこり葉山君が家に来た、いつもの元気な顔じゃなかった。
「どげんしたとね?」とたずねたら「あした朝鮮に帰るけん」と突然言われた。 僕は何のことやらわからずに、ポカンとしてたら、「うち朝鮮人たい。金ちゅう名前やったったい」といって、てれくさそうな顔が泣き顔になり、うつむいた時、鼻水がポトリと床に落ちた。

その時、僕は人との別れの辛さを知った。 あれから三十余年、僕は葉山君のことをわすれない。どこかで、もう一度逢いたい。

(1994)


管洋志(すが・ひろし)
写真家。
講談杜出版文化賞受賞(77年・84年)
87年土門拳賞受賞。
長年にわたり、アジアの風土、人々を撮り続けている。
主な写真集に「魔界・天界・不思議界バリ」「上海酔眼」「大日光」等がある。


 

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